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06 はなしあいのじかん


「――わかりました」



腕組みをして眉間にしわを寄せた小さな土方さんの前で礼儀正しく話を聞いている島田さんの姿はなんだかおかしな感じがする。

けれど、島田さんは気にするでもなく、いつものように丁寧に頭を下げた。



「悪ぃがいつまでこれが続くのかすら分からねぇ。山崎にも後で話をしておくから、近藤さん達が返って来るまで暫くお前ら二人で他の隊士等の統率を取ってくれ」



くれぐれも他言無用だ。

土方さんがそう凄むと、島田さんはこくりと頷いた。



島田さんが巡察に出てから、沖田さんはゆっくりと立ち上がった。



「じゃあ、皆で土方さんの部屋にでも行きましょうか」



「はぁ?なんでそうなるんだよ」



土方さんの頓狂な声が上がる。

沖田さんの隣では、斉藤さんが呆れた風にため息をついていた。



「総司、今はふざけている時ではない」



「僕は大真面目だよ」



このところ隊内に長州の間者が紛れてるみたいなのに、まだ洗い出せてないじゃない。

そんな奴等に幹部が子供になった、なんて気付かれてご覧よ、どうなると思う?

くすくすと楽しそうに笑い声を洩らすけれど、その目は笑っていない。



「だからってなんで俺の部屋なんだよ。各自個室があんだろうが」



「副長、お言葉ですが個々で部屋に潜むよりは一箇所に固まった方が――」



土方さんは小さく舌打ちして「分かってら」と呟く。

でも、その顔は納得していなくて、どうしても他の皆さんを部屋に入れたくない理由があるみたいだった。

――ちょっと違う、かな。

広間に座る皆さんの顔を見てそう思う。

ニヤニヤしている沖田さんを部屋に入れたくない、が正解なのかも。

またひとつ舌打ちをして土方さんも立ち上がった。



「他の奴らに見つからねぇようにしてついて来い」



「では、俺が先鋒で」



同じように立ち上がった斉藤さんの首根っこを捕まえて土方さんは苦い顔をする。



「お前みてぇなナリの奴が先頭歩いて見つかってみろ、それこそ問題じゃねぇか。そうだな――」



ぐるりと周囲を見回した後、ニヤリと不敵に微笑んだ。



「原田、新八。てめぇらは斉藤連れて外から回れ。誰かに呼び止められたら、屯所に忍び込んだ悪ガキのフリしろ」



隊服について問い詰められたら干してあるものをかっぱらってきたことにしろ。

ここの奴等もガキの悪戯に目くじら立てる程まだ荒んじゃいねぇよ。

拳骨の一つくれぇ笑って許してやれ。

きびきびと作戦を伝える土方さんは、やっぱりどんな姿になっても土方さんだった。

それから――

そう言って急に真面目な顔になった土方さんに、原田さん達はごくりと生唾を飲み込む。



「斉藤には絶対に喋らせるな」



「なんでだよ、斉藤の方がずっと達者な言い逃れ出来るじゃねぇか」



「バカ、その達者がいけねぇんだろうが。どこに言い逃れの上手い赤子がいる」



ああそうか、と原田さんは頷く。

確かに、小さくなってしまった斉藤さん達はまだ舌っ足らずな言葉を操っていてもおかしくないくらいに見えた。



「俺は総司と向かう。雪村、お前は平助の髪にこびりついた豆腐とワカメ洗い流してからこっそり俺の部屋に来い」



「は、はい!」



ふんわりと髪からお味噌の芳ばしい匂いをさせている平助くんの手をしっかり握って私は頷いた。



「じゃあ――行くぞ!」



御用改めの時よりも、もっと緊迫した声で土方さんがそう号令をかけると、それぞれの組が用心しながら部屋を出て行った。


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