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03 おてつだいのじかん


「あの、お着替え終わりましたでしょうか」



入口で声を掛ける。

「おう、入れ」そんな土方さんの声が聞こえてきたから戸を開けると、いつもの定位置にちょこんと座る皆さんの姿。

ひとまわりもふたまわりも小さくなってしまった身体が並んでいるのだから、いつも通りの広間が随分広く感じられる。

それぞれの着物には、どうにかして今の身体に合わせようと苦心した跡が見てとれた。



「遅くなってしまいましたが昼餉を持ってきました。残りの分もすぐお運びしますから、ちょっと待っていて下さいね」



「いや、それもこれも俺たちのせいだ。せめて配膳くらい手伝おう」



「おう、行って来い平助!」



「えー!なんで俺なんだよ、新八っつぁんは?!」



横暴だよな、なんて言いながら立ち上がった平助くんと、いつも通りの落ち着いた動作で斉藤さんが私の後ろをついてきた。

子供に戻ってしまったおふたりがちょこちょこと狭い歩幅で私の後ろをついてくる姿が、本当に可愛らしくて、思わず頬が緩む。

お勝手に並べたお膳を一つずつお渡しすると、お二人は小さな顔に不満の色を浮かべた。



「幼子になったからといって遠慮立てせずともよい。いつも通り膳は二つ運べる」



「そうだよ千鶴、お前が二つ持ってんのに俺らが一つって訳にはいかねぇだろ!」



そうは言っても、両手一杯にお膳を抱えるお二人にもう一膳、というのはどう考えても無理そうだった。

それでも、と言い張るお二人に、渋々もう一膳ずつお渡しする。

危なっかしい足取りでふらふらとお勝手を出て行く後ろをハラハラしながらついていった。

カタカタ揺れるお椀が危険を告げているようで気が気じゃない。



「うぉっと!」



床板の小さな継ぎ目に爪先をひっかけて平助くんが蹴つまづく。

あぶない!

反射的に投げ出されそうになったお膳の片方を受け取ったけれど、一呼吸後にはわっと叫ぶ斉藤さんと、廊下の上をお椀が転がる音が響き渡った。



「あっち!」



頭からお味噌汁を被った平助くんが飛び起きる。



「平助くん!」



慌てて駆け寄って、火傷していないか、小さな彼の前髪を掻き上げて額を確認した。



「ちょ、千鶴?!」



幸い肌が少し赤くなっているだけで、大事には至らなかったみたい。

ほっと安堵してから気づく。

転んだ筈の平助くんの両手には、お膳が死守されていた。

じゃあ、この廊下に転がっているのは――



「平助……」



「わっ!ごめん一くん!」



下敷きにされる格好で倒れ伏していた斉藤さんの苦しそうな声に、平助くんは飛び退いた。

それを待ってから、ゆっくりと起き上がった斉藤さん。

けれど、途中でピタリと動きを止める。

目は廊下の惨状に釘付けだった。



「……っ!これは……」



真っ青な顔で斉藤さんがこちらを見上げてくる。

すまぬ、と小さく呟いた顔は今にも泣きだしそう。



「まだ余分はありますし、大丈夫ですから!」



さっき受け止めたお膳を斉藤さんに渡して、元気づける様にそう言う。



「お二人はこれを先に運んでおいて下さい。すぐに代わりを持っていきますから」



しょんぼり俯いたままお二人はこくりと頷くと、とぼとぼと広間に向かっていった。

ああ、やっぱりちゃんと止めるべきだった。

あんな小さな身体になってしまったお二人に、あんな大きなお膳を持たせるべきじゃなかった。

お膳をひっくり返してしまった自分を責めているであろうお二人を思うと胸が痛む。

あれは、完全に私の判断がいけなかったのに。

申し訳ないことをしてしまったな、と後悔しながらも、早く残りのお膳を準備し直さないと、と私は急いでお勝手に戻った。


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