021 ぴらピリ▽side:総司
「ただいまー」
「おかえり」
「うわっ」
帰って来た美緒ちゃんを出迎えてあげたら、幽霊でも見たような顔で驚いていた。
「なにその反応」
「だって、わざわざ玄関まで迎えに来てるとは思わなかったんだもん」
「えー?別にいいでしょ?」
「悪かないけどね」
そう言って下足を脱ごうとした彼女の手から荷物を取り上げた。
「……」
「今度は何、その顔」
「なんか今日のあんた、変」
親切過ぎて気持ち悪い、なんて失礼なことを言う美緒ちゃんを笑って許して、僕は先に彼女の部屋に戻った。
今日は機嫌がいいから、ちょっとくらいなら大目に見てあげる。
いつもとは違うぴらぴらした布の少ない格好で座布団の上に座り込んだ美緒ちゃんは、疲れた、だなんておじさんみたいな声を出してくつろいでいる。
「またお酒臭い」
「いいじゃん、お祝い事にお酒はつきものでしょ」
「なんのお祝い?」
「友達の結婚式」
「ああ、それはおめでたいね」
「でしょ。……飲み直すかな」
ぶつくさそう言って、美緒ちゃんは部屋の外へ消えた。
とんとんとんと暫くして軽い足音が戻って来たかと思うと、右手に銀色の筒を二つ、左手にスルメを持った彼女が現れた。
ああ、150年経ってもスルメはあるんだ。
感動に似た感情を抱く。
「はい、あんたの分」
そう言って、筒のひとつを僕にくれた。
表面にびっしりと細かな水滴をまとったそれは驚くほど冷たい。
「なにこれ」
「ビール。お酒」
あんたもなんかいいことあったんでしょ?顔に書いてる。
そう言った彼女に、意外とよく見てるんだなーなんて感心する。
もっと鈍い子なのかと思ってたけど。
小気味良い破裂音をさせる彼女を見習って、同じように筒の上辺にくっついた取っ手を引っ張ってみた。
ぷしゅっと空気が抜けて、芳ばしい香りが立ち上ってくる。
「はい、かんぱーい」
そう言って美緒ちゃんはこつりと僕の手元の筒に自分の筒をぶつけてきた。
そのまま開けた穴に口をつけてごくごくと呷っている。
見よう見まねで中の液体を口に含んで、むせ返った。
「うわ、何これ。口の中がピリピリするんだけど」
そう言った僕を見て、彼女は腹を抱えて笑っている。
ふうん、生意気。
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