103 羅刹と吸血鬼▽side:総司
「……なに、これ?」
目の前に並べられているものが何であるか、そんなことは分かってる。
ただ、僕にそれを見られた瞬間の美緒ちゃんの苦りきった顔のお陰で、ついつい悪戯な虫が腹の中で頭をもたげた。
防具だけじゃない筈だよね。
ぐるりと部屋を見回せば、隅の方にこっそり立てかけられた竹刀袋。
竹刀袋の後ろには隠すように、鍔のない木刀。
木刀の方を取り上げて光にかざしてみれば、傷一つなく新品同然。
矯めつ眇めつしながら、目を白黒させる美緒ちゃんの盗み見る。
これには訳が……なんて、しどろもどろに弁解する様が可笑しい。
強盗の件があったんだから、護身用とでも言っておけば僕もうっかり騙されちゃったかもしれないのに、バカ正直だなぁ。
前に木刀を握らせた時はあんなに嫌がってたのに、一体どんな心変わりがあったわけ?
少しだけ興味が湧いた。
いつから始めたの?
毎日欠かさず稽古してる?
強くなった?
どれくらい強くなった?
矢継ぎ早に問いを投げかければ、あわあわと言葉を紡げない唇が、でも・だってを繰り返す。
あーあ、そんなに僕に知られたくなかったんだ。
迂闊だなぁ。
「もしかして、庭で稽古した時の無様が悔しかったの?」
半ば冗談で言ったのに、美緒ちゃんの動揺っぷりったらない。
図星みたい。
根性だけはある子だと思ってたけど、ほんと見上げた負けん気だよね。
「ちょっとやってみせてよ」
「や、やだ!」
「どうして」
「嫌なものは嫌だ」
「はいはい」
やだやだと駄々をこねる美緒ちゃんに、適当に相槌を打ちながら木刀を握らせる。
僕も竹刀袋から竹刀を出す。
鍔をつけてないけど――まぁいいか。
天井は低いし、部屋は狭いし、まともな打ち合いは出来ないだろうけど暇潰しにはなりそうだよね。
「い・や・だ!」
化け物みたいな体力持ってる総司となんかやりたくありませんー!
べぇ、と舌を出す様がこれまた子供っぽくて似合わない。
「あ、化け物と言えば」
ほら、血を吸う化け物を人間に戻す方法、知りたかったんでしょ!
物騒なものは片付けて片付けて。
そんな都合のいい事をべらべらと喋る美緒ちゃんに竹刀を取り上げられてしまった。
確かに血を吸う化け物について調べて欲しいってお願いしたのは僕だけど――なんだ、つまんないの。
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