094 デジカメ▼side:美緒
「あんっまりいい写真ないなぁ」
ようやく一つ目の段ボールの半分程を見終えて、私は頭を悩ませていた。
他の親戚の写真はそれなりにあるのに、ばあちゃんの写真はどうにも少ない。
集合写真の中ですら見切れているものが多いから、もしかしたら写真嫌いだったのかも。
多分、この段ボールが一番新しいものだから、他のを探しても、誰なのって首を傾げたくなるような若い頃のばあちゃんばかりだろうし、うーん、困った。
他に写真、ねぇ……
(あ)
何気なく、開きっぱなしにしていた携帯のディスプレイに目を落としてから、アレのことを思い出した。
アレ――デジカメ。
そういえば、学生の頃にバイトした初給料で買ってみたっけ。
かあさんほど写真を撮ることにはハマらなかったけど、初めの頃は嬉しくて庭やばあちゃんのことをばしゃばしゃ撮りまくったような気がする。
ああ、そういや嫌がられたなぁ。
あの時は、余りにも節操無く写真を撮るものだから嫌がられたんだと思ってたけど、そうか、ばあちゃんは写真嫌いだったか。
ちょっと申し訳ないことをしたなぁ、なんて考えながら、どこにしまったのかいまいちよく思い出せないデジカメを探しに席を立った。
最後に使ったのは去年の結婚式だから――
もしや、バッグに入れたままか?
押し入れの中をごそごそと漁れば、推理通りにシャンパンゴールドの小さなバッグの中から電池の切れたデジカメが転がり出てきた。
ついでに、失くしたと思っていたグロスも一緒に。
あーあ、新しいの買ったっての。
今度は使った記憶すら朧な充電器を探し出して来て、カメラの電池を差し込んだ。
半時間もあれば画像を見れるくらいには充電できるかな。
「総司、ちょっと休憩にしよ」
さっきからしんちゃんの写真をじぃっと見つめたまま微動だにしなかった総司に声をかけて、二人分のマグカップを用意する。
時計の針は日付を越えた頃だったけど、頭使う仕事してるしいいよね――
苦しい言い訳をしながら、ココアを用意する。
ミルクと砂糖の量を自分の分だけちょっぴり少なめにすることで乙女心とは折り合いをつける。
葛湯に砂糖を足したり、ガトーショコラの甘さに感動していた総司は、甘いと言って顔を綻ばせながら機嫌良くココアにも口をつけていた。
ほんと、子供みたいな奴。
その横顔が、あまりにも無邪気で、見ているこっちもなんだか幸せな気分になる。
(こういう総司の写真が手元にあったらいいのになー)
ぼんやりそんなことを考えながら、ふと実行出来ることを思い出した。
ちょうどいいじゃないか。
まだほとんど充電されていない電池をデジカメに戻して、電源を入れる。
うん、一年以上放置していたけれどちゃんと使えるみたいだね。
そのまま、ごくごくとココアを飲む総司にレンズを向ける。
(写――る、よね?)
シャッターを切る前に、ふとそんなことが心配になった。
総司は、この世のものじゃない。
いや、確かに同じ人間だけど、この時代の人じゃない。
写真に写らなかったり、なんてそんなオカルト染みたことが起こったり――しないよね?
実は全部私の夢でした、みたいな、そんなオチじゃないよね?
ぽちりとボタン一つを押すだけなのに、それがものすごく難しい作業のような気がしてくる。
ああでもこんな幸せそうな総司の顔が手元にあったら、年末商戦だって何だって頑張れる気がする。
ぷは、なんて無邪気に息を吐いてココアを飲み干したらしい様子に、ええいままよとボタンを押し込んだ。
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