082 追及▽side:総司
「ねぇ、僕はいつ死ぬの?」
そう言った途端、美緒ちゃんはぎくりと身を強張らせた。
「……は、」
怒ってるような泣いているような表情をする彼女に、やっぱり何か知っているんだと確信する。
「教えてよ」
“沖田総司”がいつ死んだのか。
場所は?
理由は?
後世に残された僕の運命に従う気なんて更々なかったけれど、それを知ることで、命の使いどころくらい見極められるでしょ?
少なくとも、最期は畳の上、なんていう無意味で不様な終わりだけは避けられる。
「ねぇ、教えて」
美緒ちゃんの耳元でそっと囁く。
「知、らな」
「嘘」
「嘘じゃ、ない……」
手の甲を口元に押し付け、肩口を震わせる美緒ちゃんの手首をしっかりと握る。
ああ、バカだなぁ。
嘘を吐くのが本当に下手。
そんな真っ青な顔してたんじゃ、知ってると言っているようなものだよ。
「死刑宣告は怖い?」
なら僕の質問に首を振るだけでいいよ。
嫌だと横に首を振りかけた美緒ちゃんの頬に左手を添え、こちらを向かせる。
瞳の中の微かな情報すら見落とすまいと、吐息が混じるくらいの至近距離から彼女を覗き込んだ。
痛みを堪える子供をあやすように、笑みを作る。
「ねぇ。初めて僕がここへ来た頃のこと、覚えてる?」
僕の質問が予想外の内容だったのか、少し驚いたそぶりを見せた後、彼女は戸惑いながら小さく頷いた。
「美緒ちゃんは僕のこと、幽霊だと思ってたんだよね」
それに、なんだか変な名前もつけられたっけ。
含み笑いしながらそう言えば、不安そうだった美緒ちゃんの目に微かに力が宿った。
「それは総司が……!」
「僕が、何?」
ゆったりとした声音で先を促せば、視線を逸らせた彼女が不服そうな顔をする。
「僕はナナシノゴンベエです、って名乗ったからじゃん」
「……そうだったかな」
「間違いなくそうでした!」
「だからって、それを頭っから信じ込むのもどうかと思うけど」
からかえば、途端に美緒ちゃんの眼光が鋭くなる。
でも――と。
何か言いかけた彼女を遮って、僕は言葉を紡ぐ。
「でも結局、きみは自力で僕の名前を知った」
そうだよね?
念を押せば、間を置いてから、こくりと小さな肯定。
「ただ、それ以前からきみは僕を知っていた」
「……っ、知らない」
「知らない?本当に?」
「……」
『病弱な天才美少年剣士』
いつか、彼女が口にした言葉をなぞる。
ひとつひとつの音を確実に彼女の耳の中へ届けられるよう発音した。
ゆっくりと、はっきりと、幼子でも聞き取れるくらいに。
「“沖田総司”がそういう人だって教えてくれたのは、間違いなくきみだったよね」
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