068 月の消える刻▼side:美緒
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ゆっくりと瞼を上げれば、ちょうどフィルムを入れ替えるための休み時間なのか、場内は明るくなっていた。
今、何時だろう。
そう思って、ポケットから携帯を取り出そうとして違和感に気付く。
身体が動かない。
正確には、頭と右肩が動かない。
目だけをきょろきょろ動かせば、まるで腕を組むみたいに総司の左腕に絡めた自分の右腕が視界に飛び込んできて慌てる。
じゃあ、私が枕にしているのは総司の肩で、私の頭を枕にしているのは――
恐る恐る、自由な左手で頭の上のものに触れてみる。
ぷすり。
(ん?)
がぶり。
「ぎゃっ!」
慌てて手を引っ込め、飛び起きた。
中指が痛い。
それもその筈、第一関節と第二関節の間にくっきりと赤い歯形がついていた。
「な、なんで噛むの!」
「じゃあ聞くけど、なんで僕の鼻に指入れたの」
「鼻……」
伸ばした手の指がぷすりと刺さったのは、どうやら寝起きで不機嫌に掠れた声を出す総司の鼻の穴だったらしい。
「き、汚っ」
鼻に刺さった指を総司の服へなすりつける。
ついでに噛まれた中指も。
「ちょっと、それはないんじゃない?先に仕掛けてきたのはそっちなのにさ」
不満顔の総司。
いやいやいや、不可抗力です不可抗力。
ていうか、噛まなくてもいいと思うんだけどね。
ごしごしと左手をなすりつけたまま、解放された右手で携帯を引っ張り出す。
かぱりと開いた待ち受け画面に表示されているデジタル時計の数字に首を傾げた。
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