067 映画▽side:総司
大きく広げられた幕の中で、役者が縦横無尽に駆け回る。
芝居は、歌舞伎でも人気の忠臣蔵。
吉良邸へ討ち入る赤穂浪士の姿を、隣の席の美緒ちゃんが食い入るように見つめていた。
(ん?)
美緒ちゃんが食い入るように見つめているのはどうやら、幕の中の役者の姿だけじゃないみたい。
なぜかその視線は、僕と幕の間を行ったり来たりしている。
「……ごめん」
幕が暗くなり、反対に部屋に薄明るく灯が入るとすぐに美緒ちゃんはしゅんとした顔で僕に謝ってきた。
「どうして謝るの?」
「だって、総司は自分達の未来を知りたくないって言ってたのに」
こんな映画、見せて。
小さな声でそう呟いた彼女の言葉に、余計に疑問が膨らむ。
幕の中の芝居と、僕たち新選組は全くの無関係だと思うんだけど。
そう言って、美緒ちゃんに詳しく話を聞けば、どうも赤穂浪士と新選組をごちゃ混ぜにしてしまっているみたいだった。
「あっはは!彼らは新選組じゃないよ」
「ち、違うの?」
だって、いつかの総司と同じ格好をしてたじゃない。
困惑した彼女の瞳が揺れる。
「だんだら模様の羽織を言ってるの?」
そう問えば、彼女はこくりと頷く。
彼女の反応を見たら近藤さんは喜ぶかな、それとも恐れ多いと慌てるだろうか。
赤穂浪士の忠義をなぞって隊服の紋を決めた近藤さんに思いを馳せると、微かに口元が緩んだ。
「模様は同じだけど、赤穂浪士の羽織は黒色。僕らの隊服が浅葱色なのは知ってるでしょ」
「だって、モノクロ映画じゃ色の違いなんて分かんないよ!」
うーん、羽織の下の服装だって少し違うと思うんだけどな。
まあ、僕たちの時代から大きく変わってしまった文化の中に暮らす彼女には元禄の世だろうと文久の世だろうと同じ、か。
赤穂浪士の討ち入りから僕らの時代まで、何代も将軍さまが変わっているんだよ、なんて説明をしていたら、さっきまで曇っていた美緒ちゃんの顔が見る間に晴れていった。
現金だなぁ、なんて笑えば、草笛の音を何倍にも大きくしたようなけたたましい音が部屋の中に鳴り響いてまた、灯りが落ちた。
次の映画が始まるよ、と言って美緒ちゃんが明るくなり始めた幕を指す。
彼女に倣って前を向くと、また新たな芝居が始まった。
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