望月の訪問者 | ナノ

056 子供たち


▽side:総司



「そうじ!」



「そうじだ!」


久しぶりに壬生寺に顔を出してみたら、子供たちが跳ねるようにして駆けてきた。

どの顔も、まだ冷たい初春の空気に晒されて頬が赤い。

けれど寒さなんて気にする風でもなく、薄着の子供たちは元気にはしゃぎまわっている。

きゃあきゃあと口々に何か言う姿に自然と笑みが浮かんだ。



「何してたの?僕も仲間に入れてくれる?」



「いいよ、こっち!」



子供たちの中でも、一番年少に見える子の手が僕の手の中に滑り込んできて、早く早くと引っ張る。

半ば駆け足になって、さっきまで子供たちが遊んでいたところまで戻ると、ころころと地面に幾つかの独楽が転がっていた。



「そうじったらすごく上手なんだから!」



馴染みの子が新参の子に得意げにそう教える。



「でも、そうじが来ない間にみんな上手くなったからね!」



もう負けないよ、と自信ありげに笑んで糸を巻き始めた子に倣い、僕も手近なところに落ちていた赤い独楽を取り上げる。

我も我もと何人かがそれに続く。

楽しそうに笑う子供たちを見ながら、この子たちと遊べるのもあと少しかな、なんて微かな感傷が押し寄せた。

年が暮れる前に江戸へ発った平助達の隊士募集は順調らしい。

先日到着した先発隊がもたらした文には、今の屯所では全ての隊士を生活させるには少々手狭であるかもしれないという懸念が記されていた。

大人数になれば、薬を飲んだ‘彼ら’を隠匿するのも容易ではなくなってくる。

秘密を知った隊士を片っ端から粛清する訳にもいかないしね。

このところ、土方さんの話の中に屯所の移転を匂わせる言葉が混じる。

新しい候補地を正式に口にするのもそう遠くない未来だろう。

僕たちに場所を提供してくれるような人が京の中に居れば、の話だけど。



「ぼくの勝ち!」



わっと沸いた子供たちの声に、意識は現実へと引き戻される。

見れば、僕の放った赤い独楽はいつの間にか土俵の外へと弾き飛ばされていた。

なるほど、自信ありげに笑うだけあって随分上手くなっている。



「次はぼくの番だよ!ほら、そうじも早く巻いて」



独楽が足りなくて、参戦できなかった子達がいち早く転がり落ちた独楽を拾い上げる。

早く早くと急かされるままに、もう一度僕も糸を巻き始めた。


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