058 罰ゲーム▽side:総司
退屈だとうそぶいた美緒ちゃんに十六武蔵なんかを教えた僕がバカだった。
果敢に攻める彼女の気概には舌を巻いたけれど、少々度が過ぎている。
というか弱い。
弱すぎる。
どうしてそこまで自分を追いつめられるのか分からないけれど、美緒ちゃんの動かす武蔵は笑っちゃうくらいすんなりと僕の包囲網に飛び込んでくる。
その余りにも見事な飛び込みっぷりは、勝敗のつけ方を勘違いしているんじゃないかと疑いたくなるほど。
初めのうちはそれが可笑しくて、もう一回もう一回と言われるままに付き合っていたけれど、余りにも手応えがなさ過ぎて段々飽きてきた。
でも美緒ちゃんは勝つまで続けるらしい。
勘弁して欲しいな。
もう一回だけ!と拝み倒すから、これを最後にする約束を条件に仕方なく了承して、先手を促した。
ここまで付き合ったんだから、今度また僕が勝ったら次は美緒ちゃんに何か僕のお願いを聞いてもらおう。
そんなことを考えながら自分の持ち駒を動かす。
あーあ、またそんな袋小路に入っちゃって。
子供たちとやった時でもここまで一方的じゃなかったんだけどな。
そう思いながらも手加減はしない。
今更手加減されて勝ったところで嬉しくなんてないでしょ?
うんうん唸る美緒ちゃんを笑顔で追い詰めていく。
(あ。あーあ)
また、無鉄砲な武蔵が敵陣に飛び込んできた。
一拍遅れてそれに気付いた美緒ちゃんが、まずい、なんて言いたそうな顔をして駒の位置を戻そうとしたから、先に詰みの一手を打ってやる。
「はい、また美緒ちゃんの負けね」
「う、うー……」
左手に握ったままだった黒い駒をぼとぼとと畳の上に取り零しながら、涙目で僕を睨みつける美緒ちゃんににっこり笑いかけた。
「さあ、どんなお願いを聞いてもらおうかな」
「は?何それ」
「敗者は勝者のいいなりって言ったじゃない」
「聞いてない」
「えー。言ったよ」
そうとぼければ、聞いてないと必死の抗議が返ってくる。
うん、まぁ、心の中で言ったから聞こえてなかったのかもね。
ていうか、どうしてそんなに必死なの?
それじゃまるで僕がとんでもないお願いを口にするみたいじゃない。
「そうだな……じゃあ「いやだいやだいやだいやだ」まだ何にも言ってないよ」
「どうせ碌な事言わないもん。閉じとけ!その無駄な口を閉じとけ!」
「ひどいなぁ」
「ひどいのはどっちだ」
確実に美緒ちゃんの方だと思うんだけど。
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