「ねぇ、目的は何?」
きりきりと腕を捩じる手に力を込めると、彼女の顔が苦痛で歪む。
掌の下で、何か言おうと彼女が口を動かすから、そっと手を離した。
「……っ、急に何す「それはこっちのセリフ」
無理矢理に顎を引いて、彼女の表情が見えるよう顔を上げさせれば、意思の強そうな瞳とぶつかった。
意味が分からない、とそれが無言の内に語っている。
ふうん、君ってホント役者だね。
こんな状況でもそうやってとぼけられるんだ。
「僕を車に閉じ込めて、どこに行ってたの。仲間でも呼びに行った?」
残念、君はもう僕の手中だ。
余程非情な組織でもない限り、君を掌握している僕に手出しは出来ないでしょ?
真っ青な顔で僕を見上げる彼女にそう伝えれば、腕の中で力なく首を振る。
「一体何を勘違いしているのか分からないけど、私はあんたを捕まえようとか、あんたの身柄をどこかに差しだそうと思って車ん中に残してった訳じゃない」
「じゃあ、その手の中のものは何」
彼女が自由な方の手に握っている派手な黄色の袋に目を移す。
重そうな何かがその中にあった。
「自分で確認すれば」
彼女は乱暴にそれを投げて寄越す。
咄嗟に手で払い落すと、足元に落ちてごとりと鈍い音がした。
そっと袋の中身を確認すると、見慣れない物体。
「なにこれ」
「あんたの靴」
履物を買ってきたの、あんた裸足だから。
そう言われて眺めれば、確かにそれは、僕が足を入れればちょうどくらいの大きさだった。
「説明不足のまま、鍵を閉めてあんたを置いてったのは悪かったと思ってる」
でも、裸足の奴を連れて店の中を歩く訳にはいかないの。
好奇心の強いあんたのことだから、鍵を開けっぱなしにして車に置いていったら、ふらふら出てっちゃうでしょ?
エンジンを掛けっ放しにしていったらそこら中をいじるだろうし。
すぐ戻るから、大人しくしててくれると思ったのよ。
だから、ごめん。
掠れた声でまくし立てる彼女の目の中には、謀るような色は見えなかった。
でも、信じ切れない。
「言葉じゃどうにでも言えるよね」
「……そうね」
震える瞼をそっと閉じて、彼女は疲れ切った様子でため息を吐いた。
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