「さ、着いたから窓閉めて」
色んな形の車が並んでいる広場に入ってから、美緒ちゃんも車を止めた。
言葉に従って、ににに、と硝子を目一杯上まであげると、彼女はにっこり微笑む。
「ちょっと待っててね、すぐ戻るから」
そう言って、彼女は‘しいとべると’を外すと外に出る。
がちゃん、と幾重にも錠が下ろされるような音がしたのを確認してから美緒ちゃんはさっさとどこかへ行ってしまった。
僕にこんな変な格好までさせて連れだした癖に、こんな変な場所で留守番させるつもり?
大人しく僕が待ってるとでも思ってるの?
‘しいとべると’をどうにか外して、外に出ようと彼女を真似て壁にくっついている取っ手を引っ張った。
なのに‘どあ’は開かない。
押しても引いてもびくともしないから、窓から脱出することにした。
さっきと同じように駒を押して硝子を下げた、
筈だった。
あの不思議な音はしなくて、硝子は動かない。
引っ張り上げても、再度押し下げてもさっきまでの出来事が嘘だったみたいに硝子はそこにあるまま。
目の前に並んだ駒をめちゃくちゃに押しても、穴から冷たい風が吹き出て来ることもなければ、何かが起こることもない。
美緒ちゃんがやってたみたいに、円盤の根元もいじってみたけれど、やっぱり何も起こらなかった。
完全に閉じ込められた。
そう考えるとじりじりと心の端が焦げていくような感覚に襲われる。
ここは僕の生きる時代の遥か後の世で、美緒ちゃんはただの女の子。
そう信じ始めていたけれど、やっぱりそれは大きな間違いだったんだ。
彼女を甘く見ちゃいけないって、平和呆けした頭は危険だって、そう思ったばかりだったのに。
現に僕は今、こうやって囚われている。
刀も奪われて、丸腰だ。
どうにかして逃げ出さないと。
ひやりと冷たい硝子に手を当ててみる。
びいどろほど薄くはないけれど、硝子なら叩けば破れるだろう。
拳を窓に叩きつけようと腕を振り上げた瞬間、慌てたような彼女の高い声が耳に飛び込んできた。
「ちょ、何やってるの!」
がちゃん、とまた幾重にも錠を下ろすような音が響いて‘どあ’を開くと、彼女が中を覗き込む。
ばちりと目が合った。
見る間に彼女の瞳は大きく見開かれる。
「……どうし「黙って」
彼女の腕を掴んで無理矢理中に引き摺りこむと、口を押さえて後ろ手に締めあげた。
易々と腕の中に収まる華奢な身体の感触に既視感を覚える。
ああ、初めてこっちに来た時もこうだった。
あの日と違うのは、彼女が抵抗すること。
ばたばたと暴れる足が車を揺らす。
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