望月の訪問者 | ナノ




面白くなって、ににに、ににに、と何度も硝子を上げ下げしていたら、「遊ぶな!」と美緒ちゃんに小突かれた。

仕方ないよ。

ここには見慣れないものが多いのに、さっきから円盤にしがみ付きっぱなしの君は「これは何?」なんて尋ねてもほとんど曖昧な返事しか返してくれないし。

駒から手を離して、周りを物色する。

さっき彼女が円盤の根元をいじったら車は動き出した。

肘掛にくっついた駒をいじれば硝子が上下したし、この車の中にはからくりが沢山仕込まれているんだと思う。

窓から入って来る、ちょっと冷たい風が気持ちいいから、きっと、この正面の大きな硝子を開けたらもっと気持ちいいだろうな。

この硝子を下げる為の駒はどれだろう。

目の前に沢山並んでいる駒を眺めて少し思案する。

どれも似たり寄ったりだから、取り敢えず適当に押してみた。

途端にその沢山の駒の配列の隣の穴から強い風が吹き出してきた。

その風が、すごく冷たい。



「わ、なにこれ」



「ちょ、この季節にエアコンなんて要らないでしょ!寒い!」



美緒ちゃんの手が伸びてきて下の方の駒を押すと風が止まった。



「もう、危ないから勝手なことしないで!」



また叱られた。

お願いだから着くまでじっとしてて、なんて言う美緒ちゃんの声が泣きそう。

仕方ないから僕は膝の上に手を乗せて、正面からぐんぐん流れて来る景色を眺めていた。

車は何度も走ったり止まったりを繰り返す。

そのうち、それに規則性があることに気付いた。

ところどころに立っている赤色の火が灯れば車は止まり、緑色の火が灯ればまた動き出す。

時々黄色の火が灯ることもあったけれど、それの意味はよくわからなかった。

車が走る道の脇には何本もの樹木と細くて背の高い灯りが並んでいる。

さらにその外側には背の高い大きな灰色の建物。

道を歩いている人は皆、今の僕と同じような格好で、袴や着流し姿は一人も見かけなかった。

美緒ちゃんの言う通り、刀を下げている人も見かけない。

こんな時間に外を歩いているのなんて、無法者かそれを取り締まる僕たちみたいな輩がほとんどだろうから、全員が全員刀を下げていないということは、本当にこの時代には武士はいないのかもしれない。

京や江戸とは全然違うその景色は、見ていて飽きなかったけれど、目の回りそうな速さで流れていくから、やっぱりちょっと気持ち悪かった。


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