望月の訪問者 | ナノ




「言わせて貰いますけどね、刀の時代なんてずぅぅ――っと昔に終わったんです」



だから、今この時代にそんな長物を腰から下げて往来を闊歩していたら、とんでもない不審者で、とんでもない犯罪者なの。分かる?

一気にまくし立てた私に、総司は目を丸くする。



「刀の時代が終わったって?」



じゃあこの時代に武士はいないの?

店に入った強盗や、不逞浪士なんかは誰がどう取り締まるの?

ああ、うん、そっちに質問が来ちゃったね。

来ちゃうよね、そうだよね。

ていうか‘ふていろうし’って何だろう。まぁいいか。



「ここに武士はいない。犯罪を犯した人たちは捕まえて裁く人が専門に居るから、私たちは何もしなくていいの」



「その捕まえて裁く人間が武士でしょ?」



微妙にニュアンスが違う!違うけど――うまく説明出来ない。



「兎に角、今は銃の時代なの。刀を持っている人は犯罪者なの。一般人が一般的な生活をしていて、斬り合い撃ち合いになるようなことはまずないから刀は必要ない。お分かり?」



我ながらめちゃくちゃな説明だと思う。

特に前半。

刀持ってる人を全員犯罪者にしてしまった。

コレクターの方々、ごめんなさい。

でも一々懇切丁寧に説明するのも面倒。

刀を持って出掛けることは出来ない、それさえ分かってくれればいいのだけれど。



不毛な押し問答の末、ようやく不承不承といった体で帯と刀を外した頃には、とっくに日付が変わっていた。

既に精神はぐったりと疲弊していたけれど、折角なだめすかしてようやくここまで辿り着いたんだから出掛けない訳にもいかない。

半強制的にチョンマゲらしきものを解いて、軽くワックスで整える。

さあ、行こうとなったところでとんでもないことに気付いた。



靴が……ない……



「履物持ってたり、しないよね」



「持ってるように見える?」



ですよね。

あんたが来る時はいっつも身一つですもんね。

こうなったら最終手段だ。



「表に車回してくるからちょっと待ってて」



靴は目的地であるディスカウントショップで買えばいい。

あるだろ、多分。

なかったらもう裸足だ、裸足。

そこまでは知らん。

裸足が嫌なら車で待ってろ。


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