「これ着て」
押し入れから引っ張り出したのは、ゴミ袋に突っ込んだままついつい捨てそびれていた男物の服。
まぁ、所謂元彼の服ってやつ。
もうどれくらい前のことなのか考えたくもないくらい前、ほんの数ヶ月だけ、この家で一緒に暮らした奴。
軽薄を絵に描いたような奴の、軽薄さ全開な服装が総司に似合うとは思わなかったけれど、生憎この家にはこういうのしかない。
多分、身長や体型はそう変わらないから丈の心配はないと思うんだけど。
「適当でいいよ、あとは直したげるから。取り敢えず着てみて」
有無を言わさぬ勢いでその手に服の塊を押しつけて、部屋を出る。
障子にもたれ掛かる様にして廊下に座り込む。
「横暴さは誰かさん顔負けだね」なんていう総司の呆れた声と、微かな衣擦れの音だけが暫くの間部屋から漏れ聞こえてきた。
「はい、出来たよ」
急にもたれていた障子が開いたものだから、私は背中から部屋に転がり込んだ。
逆さまになった視界の中に微妙な表情で微笑んでいる総司の姿が飛び込んでくる。
ああ、うん。
思ったよりずっと普通だ。
まぁ、似合ってなくもない。
もともと着物の襟元もルーズに肌蹴勝ちだったから、少しくらい首元の開いたカットソーでも何ら違和感はない。
色落ちさせ過ぎだろ、と思わず突っ込みたくなるようなケミカルウォッシュ過多のジーンズも、それなりに、悪くない。
苦労の跡が窺える、鋲打ち込み過ぎのベルトも、取り敢えずまともに腰に巻きついている。
だがしかし。
腰に差さっているそれは何だ。
うん、頑張って差したね。
ベルトだけじゃ頼りないから帯を締めたんだね。
良く工夫出来てるよ。
でも重みでズボンが今にも脱げそうだよ。
「外せ。今すぐその腰のものを外せ」
「嫌だよ」
「嫌じゃない。どこに刀ぶら下げて出歩くバカがいるんだ。ここは平成の世だ、そんなもん必要ない」
「僕には必要なもの「ええい、うるさい。そこに直れ!」
ビッと畳を指差すけれど、総司は涼しい顔で素知らぬふりをする。
ああもう小憎たらしい。
ガキか、あんたは。
おこしゃまか。
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