望月の訪問者 | ナノ




「じゃあさ、君の知ってる新選組について教えてよ」



「だからあんまり詳しくないんだってば……」



また、とろりと眠たげに下がってきた瞼で彼女は答える。



「ずっと昔に、浅葱色の羽織を着てチャンバラやってた人たち」



「ずっと昔?」



ちゃんばら、が何を指す言葉なのか分からなかったけれど、それよりも新選組を過去形にするのがひっかかった。


「昔だよ。えーっと、江戸か明治か……それぐらいだったでしょ?」



同意を求められたって答えられる訳がない。

そもそも、言葉の意味がよく分からなかった。

めいじ?

ずるずると彼女は畳に寝転がる。

その目は最早完全に閉じていた。



「新選組が‘ちゃんばら’やらなくなってからどれくらい経ったの?」



そんなの知らないよー

目を閉じたまま彼女が煩そうに答える。

それは、彼女が単純に世間知らずなだけか、或いは――





よほどの学者しか知らない程の遠い、些末な歴史なのか。





近藤さんを思うとちくり胸が痛んだ。



「ねぇ、文久三年は‘今’からどれくらい前なの?」



彼女は答えない。

瞼は静かに閉ざされている。



「ちょっと、聞いてる?」



すよすよと規則正しい呼吸音。

言葉にならない声で、うーだかむーだかと返事するから、まだ完全には落ちてないのだろう。



「ねぇ、答えなきゃ斬るよ?」



「ん……きってもいいから、ねかせて……」



ふぅん、いいんだ。



刀身を抜き放つと、つと彼女の首筋に宛がった。

刃が冷たかったのか、彼女は眉をひそめて薄く瞼を開く。

冷たいなぁ、なんてぶつぶつ文句を言っているのは聞かなかったことにした。



「ねぇ、答えなよ。文久三年は‘今’からどれくらい前?」



「……しらないってば」



「じゃあ例えば黒船が来たのは?家茂公が祝言をあげたのは?薩摩と英吉利が戦争したのは?どれくらい前か分からないの?」



「しーらーなーい」



日本史は苦手だって言ったでしょ。

子供っぽく唇を尖らせる。

似合わない。



「じゃあそれ以前でもいいよ。太閤秀吉とか織田信長とか」



んーと唸って、随分してから眠そうな声が呟いた。



「……関ヶ原の戦いが今から400年くらい前だから……あとは自分で計算して」



不機嫌そうに首元の剣先を追い払うと、今度こそすやすやと寝息を立て始めた。



150年後に暮らす人は。




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