望月の訪問者 | ナノ

028 迂闊


▼side:美緒



満月の夜に現れるあいつが、沖田総司かもしれない――それに気づいてから、私は悶々と一ヶ月を過ごした。

以前、新選組の隊士なら少し知っていると、自慢げにあいつに向かってそう言った。

一番有名なのは沖田総司だと。

病弱な、美少年剣士だと。

あいつは、病弱でもなければ少年でもないと笑い飛ばした。

もしあいつが沖田総司だとしたら、あの時はまだ結核を発症していなかった。

だから、私の病弱だという言葉に笑った。

きっと、後世に誤った情報が伝えられていると考えるだろう。

けれど、今は?

池田屋事件で喀血し、発症した。

彼はまだ、怪我が原因だと思っているかもしれない。

けれど、もし私が病弱だといった言葉を覚えていたら?

病気が進行する前に、自分が結核だと気づいてしまったら?

幾ら歴史に疎い私でも、結核がかつては不治の病であったことくらい知っている。

じゃあ、私のしたことは――私の言葉は、あいつへの余命宣告の様なものだったんじゃないか。

そう考えると怖くなった。

彼が知っているであろう“沖田総司”に対するほんの少しの配慮で「夭逝の」という言葉を口にすることは止めた。

だれだって、仲間の死期なんて知りたくないだろうし。

それだけ考えて、どうしてあの時、ただ単純に美少年の天才剣士だと、そう言わなかったんだろう。

結局、直接的な言葉を口にしなかっただけで、私は“沖田総司”が病にかかることを知らせてしまったじゃないか――

数ヶ月前の自分を呪った。

丸々と太っていた月が段々と痩せ衰え、また丸々と太りゆく様を眺めるのが怖かった。

次にあいつにあった時、どんな顔をしていいか分からなかった。



(あいつが“沖田総司”だと決まった訳じゃない――)



そう、自分を励ましながら、月が昇るのを待った。

確認しよう、あいつが何者なのか。


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