“池田屋”をキーワードに検索をかける。
ばらばらっと表示された一覧の一番上に“池田屋事件”という表記があった。
半無意識的に手がそのリンクをクリックする。
ざっとした概要を読んでみると、ふわっと朧に知っていた。
ああ、多分試験に出るとかで勉強したんだろうな。
試験が終わった瞬間に、きれいさっぱり忘れたんだろうけど。
先を読み進めて、中程にあった一文に目を奪われた。
『突入時、新選組のメンバーは近藤勇、沖田総司、永倉新八、藤堂平助の4名であったと言われている』
もしかしてあいつは、この四人の内の誰か、なのでは――
そんな直感が脳裏を過った。
もやもやとした何かがぼんやりと輪郭を持ち始める。
もう少し、もう少しで何かが見える気がする。
たぶん今、私は真実の近くにいる。
そんな確信があった。
画面に意識を戻して先を読み進める。
『沖田は奮闘したが戦闘中に病気が発症し、戦線を離脱。額を切られた藤堂も、同じく中途で戦線離脱した』
あいつは沖田でも藤堂でもない。
病気ではない、そう言っていたし、額に怪我なんてなかった。
幾ら浅い傷だとしても、紙で指を切ったんじゃないんだから、少しくらい跡が残っている筈。
あいつの額には包帯を巻く訳でもなく、見た目は至っていつも通りだった。
ただ、ひどい咳と手を伝う赤色――
けれど、それが病気じゃないってどうして言い切れる?
説明を更に読み進めると、戦闘中に労咳を発症し、喀血したとある。
ひどい咳に喀血――
まさにそれは今のあいつの症状じゃないのか。
あいつは怪我だと言い切ったけれど、本当にそれが怪我のせいだったって言い切れるの?
例え自分の身体だって言っても、それをすぐに判断できるものなの?
(まさかそんな筈、ない)
浮かんでくる嫌な予感を打ち消しながら先を読み進める。
彼がただの怪我だって確証出来る何かを欲っしていた。
彼が沖田総司ではないということを示す何かを。
近藤勇や永倉新八に怪我はなかったのか。
血を吐く程のひどい咳を伴うような怪我は――
けれど、期待とは裏腹に、もうそれ以上私の欲しい情報はなかった。
ならば、と検索サイトに戻って、今度は“近藤勇 永倉新八 池田屋事件 怪我”というキーワードを検索する。
『近藤勇と二人になった永倉は親指に深い傷を負いながらも戦った』
そんな記述を見つけた。
永倉新八でもない。
咳き込みながら口元を押さえた方の手にも、蛇口を捻った方の手にも、深い傷なんてなかった。
じゃあ、近藤勇か――
私でも知っている、新選組局長はもっとオジサンであるイメージが強かったんだけれど。
再び検索画面に戻って今度は“近藤勇 池田屋事件 年齢”で検索する。
(さんじゅう、いち)
思ったより、ずっと若くて驚く。
けれど、どう見たってあの憎まれ口を叩く子供っぽい男が31歳には見えない。
確か、以前私の三つ下だって言ってなかったっけ。
沖田総司と同い年だって――
どきん、と心臓が鳴った。
さっきの引っかかりがまた頭をもたげる。
池田屋で喀血した――沖田総司と同い年の男。
人違いかもしれない。
けれど、彼が沖田総司であると思わせるような情報ばかりが私の目の前にあった。
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