018 かりんとう攻防戦▼side:美緒
「ほら、この前刀の手入れ手伝ってくれたでしょ?」
かりり、ふたつ目のかりんとうをかじりながら権兵衛(仮)はそううそぶく。
その真意を確かめようと私は月光を集める翡翠色を覗きこんだ。
本当に?
本当にそれだけの理由でお土産を持ってきたの?
「ふうん、まだ疑ってるんだ。あんまり疑うと――斬っちゃうよ」
そう言って、太刀に手を掛けるものだから慌てて首を横に振った。
こいつなら私を斬りかねない。
その声音にはそう思わせる程の威力があった。
かりかりかり。
それほど多くなかった包みの中のかりんとうが着実に権兵衛(仮)の中へ消えていく。
私の為に持って来てくれたんじゃなかったのか、それは。
「ほら、君へのお土産なんだから早く食べなよ」
私の心を見透かしたかのように、そう言ってのける。
なんなんだよもう。
エスパーかお前は。
じゃあ頂きます、と小さく声をかけてから一番大きなかりんとうに手を伸ばした、
筈だった。
さっきまでそこにあったそれが、一瞬にして権兵衛(仮)の手の中に移動していた。
思わずジト目で睨む。
「それ……私が食べようと思ったやつ……」
「え?なに?」
くすくす笑いながら聞こえなかったとでも言いたげに聞き返してくる。
わざとだ。
絶対にわざとだ。
ていうか、確信犯だ。
「だから!その一番でっかいの!私が食べようと思って手を伸ばしたの!」
「うん、知ってる」
「知ってて取ったんだな?!」
「まぁね。だって君、面白いんだもん」
「おもっ……」
くっそ、何なんだこいつ。
意地悪の塊か。
もういい、と今度は一番カリッと美味しそうなキツネ色になっている奴を狙って手を伸ばした
のに、また横取りされた。
「またそれ!私の!」
「えー?」
澄んだ翡翠色がこれでもかってくらいに煌めいている。
性格悪い。
マジ性格悪い。
「ねぇ、恩返しじゃなかったの?!私に見せびらかしたいが為に持ってき――むがっ」
言葉の途中で無理矢理かりんとうを口に突っ込まれたものだから慌てて咀嚼する。
うん、甘くて美味しい。
いや、そうじゃない。
「何すん「うん、意地悪してごめん。ほら、もうしないからゆっくり食べなよ」
さっきとは打って変わって、優しげに微笑んだ権兵衛(仮)は残り数本になったかりんとうの包み紙を取り上げると私の膝の上に置いた。
「ね、これで僕に取られる心配もないでしょ?」
食いしん坊の美緒ちゃん。
――一言多いんだっつの!
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