015 ひどい味の味噌汁▽side:総司
お勝手の戸棚からかりんとうを少し拝借しようとしたら、湯のみをふたつ乗せた盆を抱えた千鶴ちゃんに見つかった。
「夕餉、足りませんでしたでしょうか?」
おずおずと不安げにそう訊ねてくる姿がいかにも加虐心を煽る。
だからついつい「今日の味噌汁は酷い味だったね」なんて素直な感想を吐露してしまった。
僕の何気ない言葉に彼女は慌てて謝罪を口にする。
「も、申し訳ありません!今後気をつけます!」
あーあ、真っ青になっちゃって。
冗談と本気の区別がつかないだなんてまだまだ子供だね。
まあ、本気なんだけど。
くつくつと笑い始めた僕の耳に「でも」と蚊の鳴くほどの小さな反論が聞こえ入ってきた。
だから、敢えて怖い顔を作って問い返す。
「でも、何?言い訳するつもりなの?」
「いえ、その……」
もごもごと口の中で何事かを呟いている。
「聞こえないなぁ。言いかけたなら最後まで言っちゃいなよ。斬るかどうかは、全部聞いてから判断するからさ」
何も言わずに殺されるよりも、ちょっとくらい弁明してからの方が君の気が済むでしょ?
びくり、と身体を震わせて反応した彼女は、少し目を泳がせてからきゅっと唇を結ぶと強い視線でこちらを見上げてきた。
ふうん。面白いね、その目。
「もしよろしければ、どのように酷い味だったか教えて頂けると助かります」
そうすれば、今後の対策も立てやすくなりますし。
凛とした声でそう早口に付け加えた彼女に、総司の笑みが更に深くなった。
いつもは縮こまってきょろきょろしてばかりいるのに、時折見せるこういう細やかで図太くて芯のしっかりしているところが土方さんの気に入ったんだろう。
「……あの人は昔っから気の強いヒトが好きだから」
「え?何か仰いました?」
「ううん、何にも。そうだね、具体的にどう酷かったかというと――」
「言うと――?」
「ネギかな」
「ネギ、ですか」
「そう、ネギ」
「ええっと、ネギは薬味にと刻んだだけで、特に味付けなど手を加えた訳ではないのですが……」
「手を加えようが加えまいがネギはネギだよ。あんなの食べ物じゃない」
断言した総司をはたと見つめていた彼女は、唐突に笑いだした。
クスクスと控えめに笑って、目じりに溜まった涙をそっと拭っている。
「ネギ、お嫌いなんですね。今度から沖田さんのお椀には入れないよう気をつけます」
「うん、よろしく」
残りの夕餉はどれも美味しかったよ。
そう付け加え、かりんとうと一緒に入っていた一杯分ずつ小分けにされた葛粉も二包取り上げる。
病人が出た時に使いやすいように、と予め砂糖と混ぜたものを千鶴ちゃんが作っていたっけ。
流石、蘭方医の娘なだけある。
それとも、女の子だからこそ思いつく細やかさなのかな。
深々と頭を下げる彼女にひらひらと手を振り返して、僕は部屋に戻った。
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