014 Be quiet!!▼side:美緒
二人揃って折り畳んだティッシュを咥えて並んで座っている。
その姿を想像したら余りにも滑稽で、強引な新選組隊士権兵衛(仮)のやり方にイラっとしたのも忘れて笑いそうになった。
でも、隣の権兵衛(仮)が見たこともない程に真剣な顔をしていたから、思わずへらっとした笑みを引っ込めて居住まいを正してしまう。
権兵衛(仮)は私が割り箸で作った即席の‘めくぎぬき’を使って、さっき私に見せた小さな穴を突いていた。
押し出された小さな木片を脇に置いて、刀の鍔――って言うんだったっけ、あの手元の円い傘状の飾りを何度か強く叩くとティッシュを巻き付けた手で刀身を持ち、柄から抜き取る。
その後、まだ刀身にくっついたままだった平べったい小さなパーツも同じようにして外した。
「んん!」
そうやって全てを取り外された後の刃に見覚えがあって、思わず声を上げた。
刃の部分にずらずらと漢字が並んでいれば、社会の教科書に載っていた錆だらけの剣と似ている。
あれって平安時代よりももっと昔のものだった筈だから、剣の形って何百年も変わってないんだ。
歴史音痴な頭をフル稼働させて、そんなことを考える。
あの錆びた剣は何時代だったっけ。
邪馬台国とか?――思い出せない。
いつだったっけ、いつだったけ。
もっと真面目に勉強しとくんだった。
あああ、思い出せないのって歯痒い。
うんうん唸っている私を尻目に、権兵衛(仮)はきゅっきゅと刀身を強く擦り始めた。
何度も何度もティッシュを取り替えて丁寧に刃を磨いていく。
気安く刀身を触っているけれど、見るからに切れ味のよさそうな刃を触るのは、眺めているこっちがひやひやした。
彼は慣れた手つきで作業を進めていくけれど、あああもう見てられない。
座る位置をずらして、そっぽ向こうとしたら肩を叩かれた。
目の前にずいっと椿油の小瓶が付き出される。
(なに――?)
訝しみながら受け取ると、今度は手にしたティッシュを差し出された。
ああ、はいはい。
ここに油を出せってことね。
どぼどぼとティッシュに油を含ませてやる。
吸い切れなかった油が畳の上に滴り落ちた。
「んぁ!」
ティッシュを持った手で頭を小突かれて、情けない声が出た。
三日月をなす瞳が――笑ってない。
怖い怖い怖い!
笑ってないよあんた。
笑顔なのに笑ってないなんて、どんだけ器用な顔面だよ怖いよ。
ぶるぶる震える私を無視し、権兵衛(仮)はびしょ濡れなティッシュを脇に置くと、新しい一枚をまた差し出す。
恐る恐る少量を垂らすと、また頭に手が伸びてきて、今度は手の甲で軽く撫でられた。
よく出来ましたってことかい。
私はあんたの飼い犬か!
ジト目の抗議を無視して、権兵衛(仮)は油を染ませたティッシュで刀身をそっと撫でる。
刃の上で光る油量は、ちょうどホットケーキを焼くときにひく油くらい。
すなわちうっすらと、ほんの少しだけ。
油が全体に行き渡ったのを確かめてから、初めとは逆の手順で刃を柄に納めていった。
最後に小さな木片――目釘を差し込んで、ようやく完成。
元通りになった太刀を矯めつ眇めつして確認すると鞘に収め、権兵衛(仮)は口に咥えたティッシュを外した。
「お疲れ様。もう喋ってもいいよ」
その言葉にどっと疲れが押し寄せてきた。
あああ、喋らないって疲れる。
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