013 病弱な美少年▼side:総司
「沖田総司」
彼女の口から出た言葉にぎくりとした。
未だに信じられないけれど、ここは150年後の日の本で多分、間違いない。
けれど、万が一の可能性を考えて、僕の身元も本名も明かさなかった。
なのに、『新選組の隊士を何人か知っている』とうそぶいた彼女が真っ先に口にしたのが僕の名前だったから、思わず身構えた。
「なんで局長や総長じゃなくて、その名前が一番に出て来るの?」
僕の声に余裕がないのを彼女は気づいているのかいないのか、「局長の近藤勇も知ってるけど、やっぱり沖田総司が一番有名だもん」のほほんとそう答えた。
「有名?」
「そ。病弱で、美少年で、天才剣士。ドラマ性――ええっと、物語にするにはうってつけだよね」
病弱?
彼女の言葉に思わず噴き出した。
やっぱり、彼女は直接僕を知っているわけじゃない。
それが確信に変わり、安堵に似た感情が湧いた。
それにしても、後世に病弱だったなどと言い伝えられているとは、こんな可笑しいことはない。
それに新選組が結成されたのだって、僕が“少年”なんて言われるような歳を超した後のこと。
一体、どうやってその情報はねじ曲げられたのか。
あっはは、と笑い転げる僕に彼女は困惑気味の視線を投げかけてくる。
そうだよね、君には何が可笑しいか分からないよね。
「それ、色々嘘が交じってるよ」
「えぇ?!」
「だって沖田総司は病弱でもなければ少年でもないんだから」
「で、でも――」
「だって君、僕のこと少年だと思う?」
そう指摘してやると、彼女はぶんぶんと頭を振った。
「でしょ?彼、僕と同じ年だよ。少年なんかじゃない」
「うそ!」
驚いて目を見張る彼女が可笑しくてまたぞろ笑いが込み上げてきた。
顔を真っ赤にして不満そうにこちらを睨んでくるけど、ぜんぜん怖くなんてない。
「そんな笑うなら、これあげないけど」
綺麗に仕上がった即席目釘抜を懐に抱えて、膨れている。
ああ、意外に器用なんだ。
ほんと、意外。
「はいはい、ありがと。お疲れ様」
出来上がったものを取り上げてから、拭い紙の代用品を一枚折りたたんで彼女に咥えさせる。
「むぐっ!」
「いい子だから、ちょっと黙ってようねー」
慌てて紙を吐き出そうとした彼女を制して、自分も同じように紙を咥えた。
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