010 ぱそこん▽side:総司
どうやらちょっと苛め過ぎたみたいで、さっきから彼女は不審な目を向けて来る。
挙げ句、早く成仏して、なんて言われちゃうくらいだから、随分嫌われたものだ。
千鶴ちゃんみたいな素直な反応を返してくれる子も面白いけど、美緒ちゃんみたいに骨のある子をからかうのもちょっと楽しい。
まだ帰れそうもないし、こんなところでぼんやり過ごすのも無駄だからもう少し彼女には相手してもらうことにした。
「ねぇ、もう失礼なことは言わないからさ、‘ぱそこん’についてもっと教えてよ。僕、こいつには因縁があるんだ」
「えええ、また質問?」
禁止って言ったじゃん、勘弁してよ……がっくりと肩を落とした彼女に少し近寄る。
寺子屋で、熱心に先生の話に耳を傾ける子供みたいに、少しだけ前のめりになって姿勢を正す。
この前、簀巻きにした彼女を縛る為に見つけた、壁から生えた紐。
その先にくっついていた四角い塊――‘ぱそこん’のことはずっと気になっていた。
本みたいに見えるけど、意味をなさない配列で文字を書き付けた四角い駒が並んでいるだけで、文章が書かれているわけでもなし、使い道なんて見当もつかなかった。
暫く睨みあったら、彼女は根負けしたように目を伏せた。
「パソコンは、文字を書いたり、計算をしたり、色んな情報を集めたりするのに使う機械」
「色んな情報って?」
「欲しい情報なら、なんでも」
「例えば、新選組についてでも?」
「あるでしょうね、そりゃもう数え切れないくらい。そういやこの前も、新選組新選組って言ってなかったっけ……?そんなに知りたいことがあるなら今調べてあげようか?」
「……別にいい。時間を計る物差しとして知りたかっただけで、詳しく知りたい訳じゃないし」
この先、僕らがどこへ向かおうと、そんなの知らない。
僕はただ、近藤さんの背中を追って、近藤さんの剣であれるなら、それだけでいいんだから。
不思議そうに僕を見上げていた彼女は、何か言いたそうだったけど、結局何も言わないまま、色とりどりの写真を映し出す‘ぱそこん’に向き直った。
「ところでさ、あんた幾つなの?」
さっきから私のこと、慣れ慣れしく美緒ちゃん美緒ちゃんって呼んでくるけど、どう見たって年下だよね?
‘ぱそこん’に向かったまま、ぶっきらぼうだけど、慣れ慣れしく呼んでいることを不快に思っているような風ではない口調でそう問うてくる。
「そう言う美緒ちゃんは幾つなの?僕は同じくらいだと思ってたんだけど、旦那さんは?」
「女の私に歳を聞く?旦那はまだいませんけど、何か?」
「ああ、ごめんね。行き遅れたんだ」
僕の言葉に彼女はカッと目を瞠目した。
「お生憎さま、まだ二十五ですから行き遅れなんかじゃありませんー!」
似合わない子供っぽい言い方で口を尖らせる。
顔立ちは落ち着いているけれど、まとう雰囲気がふわふわしているから、少し年下くらいかと思っていた。
そう言ったらまた彼女は膨れる。
でも、二十五なら十分行き遅れだと思うんだけど。
「ふうん、三つも上なんだ」
その言葉が逆鱗に触れたのか、それからは何を話しかけても大人げない事務的な回答が返って来るばかりだった。
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