「おいおい、なにやってんだよ」
朝餉の準備は出来てるぜ?
項垂れる私の耳に、新しい登場人物の声が飛び込んでくる。
ああはいはい、わかってますよ。
どうせまたイケメンなんでしょ。
そんな投げやりな気持ちで顔を上げれば、予想に反せず爽やか体育会系のマッチョがそこに。
左之さんと小突き合いながら笑う様で、何となく誰なのか分かった気がした。
「新八……さん?」
「ん?見ねぇ顔だな」
私をマジマジと見るその人は、私の言葉を否定しない。
ああ、やっぱりなどと思っている内に、平助が私のことを簡単に説明している。
保護者みたいだな、あんた。
まぁちっちゃいし、可愛いから、到底保護者には見えないけどさ。
っていうか、え?
平助の言葉を聞いている内に、次第に新八さんの顔には憐憫の色が浮かび上がる。
なんか変だ。
おーい、平助。
なんか勘違いしてないか?
曰く、貧しく身寄りのない私は、ひょんなことから総司に保護され、屯所にやってきた……らしい。
いや、どうしてそうなった。
確かに私をここに連れて来たのは総司だけど。
一言も貧しいだとか身寄りがないだとか言ってないんだけど!
え?なんで?
そんなに私の部屋着はみすぼらしかったかい?
ちょ、それって失礼じゃない?!
確かにお高い服ではないけど――人前に出るのはちょっとためらうレベルの格好だったけど――いや、ぶっちゃけ着倒してぼろぼろだったけど――
……ま、まぁそれはいいとして!
勝手に話作り過ぎじゃない!!?
「ちょ、へいす――」
反論しようとした私は、がっと新八さんに肩を組まれて出鼻をくじかれる。
「あんたも苦労して来たんだなぁ!」
分かる、わかるぜ!腹いっぱいおまんまを食えねぇひもじさ――でももう大丈夫だ!奉公先なり嫁ぎ先なりを見つけるまではここでたんと食わしてやるからよぉ!
目に涙をいっぱいに溜めた新八さんは、私の肩をばしばし叩きながら大演説をぶちかます。
そうとなったらまずは朝餉だ、そんなことを言われ、私は抵抗も出来ないままずるずると廊下の先へと引っ張っていかれた。
189/194