――……
「ねぇ、ちょっと。いい加減にしてくれない?」
けたけたと笑い転げる美緒ちゃんの“かあさん”に向かって、僕はため息交じりにそう呟いた。
だって、もうかなり長い間こんな状態なんだから、そろそろ僕もうんざりしてくるよ。
でも、そんなの知ったことじゃないって感じに、彼女はちらと僕の顔を見て、また一層声を大きくして笑い始める。
「だ、だって」
ほほほ本気で、っ美緒と、ま、まち……間違ってん、だもん……!
まともな言葉も吐き出せないような状態で、腹が捩れる、だなんて悲痛な叫び声をあげながら笑う様はちょっとかなり滑稽だ。
美緒ちゃんも随分と変な子だけど、流石その母親というか、この人も勝るとも劣らない程に変だよね。
“とうさん”も変、なのかな。
“ばあちゃん”も変、だったのかな。
変な人ばかりが集まった家族を想像する。
それは、馬鹿馬鹿しくて、珍妙で、荒唐無稽で――けれど、とても楽しそうだった。
その騒々しさは、昔の試衛館と少し似ている。
「……ふ、」
相変わらず、笑ってばかりいるおばさんにつられて、笑いが零れた。
ああ、もう、いやになっちゃうな。
くすり、くすり。
一緒になって僕も笑う。
けらけらけら。
明るい笑い声は治まることを知らない。
ほんと……おっかし。
二人分の笑い声で部屋が溢れそうになった頃、荒っぽい鍵の音が部屋を切り裂いた。
続いて、乱暴に玄関が引き開けられる音。
「ただいま!」
その音に混じって、今度こそ、聞き慣れた美緒ちゃんの声が飛び込んでくる。
その後ろから、やたらとのんびりした少し低い声。
それは、美緒ちゃん家族が揃ったことを告げる、合図だった。
171/194