095 でじかめ▽side:総司
美緒ちゃんの言う“西洋の血を吸う怪物”は、余りにも羅刹のそれと似ていて。
変若水があちらの国からやってきた、というのもどこかひっかかりを覚える。
その怪物を倒すには心臓を木杭で突けばいい、というのも共通点なのかな。
首を刎ねても殺せるかどうかは分からないみたいだったけど。
もしかしたら彼らをヒトに戻す方法があるのかも、なんて一縷の望みを託したけれど、無情にも美緒ちゃんの回答は「分からない」だった。
もっと詳しく調べてなんて詰め寄ったけれど、イヤの一点張り。
僕たちの間でも変若水の存在については緘口令が布かれていたけれど、この時代でも血を吸う怪物は気安く口にしてはいけない事柄なのかもしれない。
けれど、だからと言って見逃してあげる訳にはいかないなぁ。
どうにかこうにか美緒ちゃんを丸め込んで、次の満月までにもう少し詳しい情報法を手に入れてくれる約束を取り付けた。
話も一区切りついて、今夜はもう新しく知り得ることはないとなったら、“吸血鬼”への興味は途端に失せた。
ま、羅刹隊は僕の管轄じゃないし、そこまで入れ込む道理もないからね。
代わりに、美緒ちゃんの手の中にある“でじかめ”へと意識は移る。
「ねぇ、僕にも使わせてよ」
そう言った僕に、どこか安堵の表情を見せた美緒ちゃんは、僕に“でじかめ”を手渡すと、丁寧にその使い方を教えてくれた。
一通り教えてもらって、部屋の中をぐるぐる回りながら色んなものを四角い枠の中に収めていった。
“でじかめ”は音こそ間抜けだったけれど、本当に見たものをそのまま小さく残せるみたいだった。
何もかもがまるで本物そっくりで、僕は夢中になって部屋中にぺふひん!の音をバラ撒いた。
「そんなに気に入ったならしばらく貸したげる」
近藤さんでも土方さんでも撮ってくればいいよ。
いつの間にか写真の選定作業に戻っていた美緒ちゃんは、写真の山から顔を上げないままそう言って寄越した。
ああ、それはいい考えだね。
鏡に映したみたいにはっきりと写る写真を見れば、きっと近藤さんも喜ぶだろうな。
でじかめをどこで手に入れたか、だなんて土方さんには問い詰められるだろうけど――近藤さんが喜んでくれるなら、土方さんの追求くらい、幾らでもかわしてみせるよ。
「じゃ、借りてくね」
うっかり忘れていってしまわないように、さっさとでじかめを大事に懐に入れる。
ひんやり冷たいその感触が、僕の心をうきうきさせた。
167/194