吸血鬼についてもっと教えてよ。
不思議からくりのカメラよりも吸血鬼の話の方に食い付いた総司に困惑する。
勝手なイメージだけど、総司って神仏とか物の怪の類は信じてないんだと思ってた。
それが意外にもオカルト好きだなんて、でかいナリしてまだまだ子供だなぁ。
心の中で小さくほくそ笑みながら、ごくごく僅かな吸血鬼の知識を披露する。
例えば、ニンニクや十字架が苦手だとか、不老不死だとか、血を吸われた人間も吸血鬼になるだとか。
私の知識なんて、小学生の頃読んだ子供向けの小説レベル。
だって、別にオカルトが特別好きってわけでもないもん。
ああそう言えば、何年か前に吸血鬼に恋する人間の女の子の映画を観たっけ。
結局あの女の子はどうなったんだっけ?
愛する彼の為に自分も吸血鬼になった?それとも、別の道を歩むことにした?
忘れてしまったけど。
「吸血鬼になった人間を元に戻す方法はないの?」
「ええ?」
心臓に木の杭を打ち込めば、吸血鬼を倒せるって話はあるけど――
「元に戻す方法なんて聞いたことないよ」
「なんだ、役に立たないなぁ」
生意気な台詞にカチンとこなかったのは、その言い方が本当に残念そうだったからかもしれない。
役に立つって何?
映画みたいにタイムスリップして現れた総司。
まさか映画みたいに、吸血鬼とも関わりがあるってこと?
何百年かの時を越えてこいつが今ここに存在してるんだから、空想上の怪物が登場したって何も不思議はない――かもしれない。
でも、その真偽は確かめられなかった。
だって、「知人に吸血鬼が……」なんて言われたらちょっと困るし。
生憎、オカルトもホラーも特別好きな訳ではない。
いやいや、好きではないどころか苦手の部類に入る。
なのに。
「ちょっと調べてみてよ、吸血鬼が人間に戻る方法」
クソガキめ、そんなことを言いやがった。
「いやだ」
「どうして。美緒ちゃんのケチ」
「ケチで結構」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
こんな夜更けにオカルト系サイトにぶち当たりそうなキーワードでの検索だなんて、私の寿命が減るんです!
なんて、口が裂けても言えない。
弱みを見せればからかわれる、これもう絶対。
調べて、やだ、調べて、やだの押し問答を暫く繰り返した後、「次会う時までに調べといてあげるから」と私が妥協する形で丸く収まった。
いや、全然丸くないんだけどね。
寧ろ丸め込まれたんだけどね。
まぁ、昼日中に怖いものにはふたをしつつ調べれば大丈夫だろう。
そう信じたい。
166/194