091 君が好き▽side:総司
「ねぇ、どうしてそこまで必死になってくれるの」
「何が」
唐突に口を開いた僕に、美緒ちゃんは怪訝そうな顔をする。
不思議なことなんて何一つない。
ううん。
僕にとっては美緒ちゃんの方がよっぽど不思議だよ。
だってそうじゃない?
たかが他人の為に、どうしてそこまで必死なワケ?
命張るような真似までしちゃってさ。
「もしかして、僕に気があるの」
そう問うてみれば、はああ!?だなんて素っ頓狂な声が返って来る。
まるでそれが図星だと言ってるみたい。
けれど、
「自惚れんな、バカ!」
あんたのこと好きだとか、そんな筈ないじゃない!
そんな風に、慌てた様子の美緒ちゃんに言い切られてしまった。
なんだ、つまらないの。
「僕は好きだけどな」
「何が」
「美緒ちゃんが」
「……は?」
好きだよ、美緒ちゃん。
そう言って、ぐっと顔を寄せる。
ごくごく至近距離にある真ん丸な美緒ちゃんの瞳の中から、小さな僕がこちらを覗きこんでいる。
「ねぇ、僕のこと嫌い?」
「……な、にを」
掠れた声をごくりと飲み込んで、美緒ちゃんは少し後じさる。
ん?と先を促しながら更に距離を詰めれば、嫌いではないと、つっかえつっかえ言ってくれた。
「そう?よかった」
微笑を浮かべたつもりだったのに、美緒ちゃんの瞳の中にはとびきりの笑顔を浮かべる僕の顔。
あれ、何だか変だなぁ。
そう思いながら、もう一度、美緒ちゃんの名前を呼ぶ。
「僕は君が好きだよ」
だって――
「君ってすごく面白いんだもん」
「はいぃ?」
再び、頓狂な声。
真っ赤に染まっていた頬は、即座に色を失って――いや、あれ、また赤くなった。
「ひ、人をからかうのも大概に……」
わなわなと握り締められた拳が震える。
ごつりと額に鉄拳を喰らう前に、僕は慌ててその場から退避した。
言葉にならない言葉を喚き散らす美緒ちゃんの顔が赤いのは照れてるから?それとも怒ってるから?
ま、十中八九後者だろうけどね。
あーあ、それにしても、そんなに怒ることないんじゃない?
面白いっていうのは褒め言葉なのになぁ。
ぽりぽりと頬を掻きながら、罵詈壮言を聞き流す。
好きだっていうのも、強ち冗談でもないんだけど――そう言ったらからかうなってもっと怒られそうだからやめにした。
「正座しろ、正座あああああっ!」
そう絶叫した美緒ちゃんに、また延々とお説教されたのは言うまでもない。
159/194