もういい、見ないで!触らないで!どんな地雷があるか分かんないから!
そう言って、美緒ちゃんは僕の手の中からごっそりと写真を奪い取った。
何なのかな、ほんとに。
折角手伝ってあげる気になっていたのにさ。
ただただ美緒ちゃんが写真の片づけをしているのを眺めているだけなのも手持ち無沙汰だったから、彼女の目を盗んで畳の上に積み上げられた別の写真の束を取り上げた。
すぐに気付いたみたいだったけれど、既に安全確認が終わった山だったのか、何も言わずに美緒ちゃんは作業に戻る。
だから僕も、そのまままた写真を繰り始めた。
こちらの美緒ちゃんは、さっきのみずぎ姿よりももう少し幼くて、紅だらけだった顔よりも、もっと大人びている。
美緒ちゃんは実年齢よりもちょっと若く見えるから、見当をつけにくいけれど、そうだな――ちょうど千鶴ちゃんくらいの年頃に見えた。
親類縁者との集まりだろうか。
しっかりと血の繋がりを感じる子供たちの集団の中でも、美緒ちゃんのことはすぐに見つけられた。
と、思ったんだけど。
「美緒ちゃんが二人居るんだけど?」
写真の中央辺りの子が美緒ちゃんだと思ったんだけど、端の方に半分だけ写っている子も今の彼女そっくりだった。
「やだ、気味悪いこと言わないでよ」
恐る恐る、といった風情で僕の手元を覗きこんだ彼女は、しばらくそれを眺めていたけれど、唐突にけらけらと笑い始めた。
「ああ、この子でしょ」
似てるよねー、なんて言いながら寄越してきた写真には、でかでかと二人の美緒ちゃんが写っていた。
「姉妹?」
「んーん。一人っ子だよ、私」
片方はイトコのしんちゃん。
さて問題です、本物の私はどっちでしょう。
歌うようにそう言って、美緒ちゃんは手を動かし始める。
彼女の横顔と、写真の二人を交互に眺めながら少し悩んでから左の子を指差した。
「こっち、じゃないかな」
「大当たりー」
流石、二年も一緒に居るだけあるね。
少し嬉しそうな声音でそう言って、美緒ちゃんは笑った。
「因みに、これが最近のしんちゃん」
かちりかちりと電話を弄って、電話の中の写真を見せてくれた。
電話の中で笑う“しんちゃん”は、確かに面影があったけれど――
「どう見たって男、だよね」
「不思議なとこなんだよねー」
可笑しそうにまた、美緒ちゃんは笑う。
その顔は女の子のそれで。
どう間違っても、今の“しんちゃん”には似ても似つかなかった。
「子供と老人は性別不詳が沢山いるからね」
ま、高校卒業するころまで性別不詳だったしんちゃんは特殊だと思うけど。
それでも、やっぱ血の繋がりってすごいよね。
そう言った美緒ちゃんの言葉に相槌を打ちながらも、僕は上の空だった。
(血の繋がり、か――)
少し前、巡察の途中に出会った南雲薫とかいう子。
千鶴ちゃんは初対面だって言っていたし、あの子も特に何も言わなかったけれど。
(血の繋がりがなければ、流石にあれ程までに似ることはないよね)
あの子は鋼道さんの行方を追う何らかの手掛かりになるだろうか。
そんなことを考えながら、手元の写真に写るそっくりな二人と、千鶴ちゃんたちを重ねていた。
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