093 血の繋がり▽side:総司
「来たよ」
そう言った僕を出迎えた美緒ちゃんは、先月とはうって変わって、びっくりするくらいにこやかだった。
そして、部屋の中も、先月とはうって変わって、びっくりするくらい汚かった。
「なに、この惨状」
「ん?写真」
ちょいちょいと手招きする美緒ちゃんには嫌な予感しかしない。
警戒しながら傍にしゃがみ込めば、その写真とやらの束をどっさり手渡された。
「なにこれ」
「だから写真」
「そういうことを訊いてるんじゃなくてさ」
分かっているクセに、と睨めつければ、おどけた様子でぺろりと舌を出した。
だから、いい歳してそういう子供っぽい仕草は似合わないんだってば。
「ばあちゃんの写真をね、探してるの」
もじくさもじくさと畳にのの字を書きながら、美緒ちゃんはそううそぶく。
「ほら、この量でしょう?一人じゃちょっと、捌き切れなくて」
確かに、部屋中に散らばっている写真の量は尋常じゃない。
でも、だからと言って、なんでここまで散らかせるの?
散らかす必要があるの?
再度ジト目で睨めつければ、美緒ちゃんは知らんぷりで作業し始めた。
あーあ、昼間にも昼寝ばかりしているんだからと書類仕事を押しつけられたばかりなのに、こっちでも似たようなことをさせられるだなんて、ツイてないよね。
わざとらしくため息を吐いて、僕は手渡された写真を一枚ずつ繰っていった。
それにしても、いつみてもこちらの時代の写真は不思議だ。
まず、色彩豊かなのが面白い。
それに、写真の中の人も景色も、ものすごく鮮明。
あちらの世にも写真はあるけれど、これほど綺麗には写らない。
新し物好きの土方さんなんかが見たら羨ましがるんだろうなぁ。
(んん?)
何となく繰っていった写真の中に写っている人たちの中の、ある女の子に目を奪われた。
どの写真にも、老若男女、様々な人が写ってはいたけれど、その女の子の登場回数だけは他の人に比べてずっと多かった。
そして、その子にはどうにも見覚えがあった。
「これって美緒ちゃん?」
白いぴったりした帽子を被り、黒っぽい、これまたぴったりした着物をまとった女の子が悪戯っぽい笑顔でこっちを見ている写真を差し出した。
「この箱は古い写真ばっかりだか――」
そう言いながら振り返った彼女は、僕の手の中にある写真を見止めた瞬間、すさまじい悲鳴をあげながら、それをひったくった。
「みみみみみ、見た?」
「うん」
「うわああああ、死にたい……」
「切腹なら介錯してあげるけど?」
そう言って鯉口を切れば、「いい!やっぱ嘘!」なんて断られた。
どっちなの、もう。
それよりも、その写真。
そんな思い詰める程おかしな写真だとは思わないんだけど。
「そ、そう?……変じゃない?」
「別に」
まぁ、来ている着物はぴっちりし過ぎていて何だか変だけど。
そう言ったら、また美緒ちゃんは死にたいと騒ぎ出した。
一体何なの。
「そんなに見ちゃ不味いものだったの」
「そ、そうでもないんだけど、出来れば例え子供の頃の写真だったとしても、水着姿は見ないで欲しかったというかなんというか」
もにょもにょと呟く。
みずぎ、って言うんだ。
写真の中の今より少しあどけない美緒ちゃんは水辺に佇んでいたから、みずぎの“みず”は水って字を充てるのかな。
「でもまぁ、この写真よりかはまともだと思うんだけど」
みずぎよりも幾枚か前に見つけた写真を眼前に差し出してやれば、またしても美緒ちゃんは悲痛な叫び声をあげる。
こっちはその気持ちも分からなくはない。
だって、顔中紅だらけなんだもん。
「こ、これは、その……かあさんの真似したくて……」
「君の母さんは顔中に紅を塗りたくる人なの?」
「んなわけあるか!」
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