望月の訪問者 | ナノ




ひとつ、食事をきっちり摂ること。

ふたつ、充分な睡眠をとること。

みっつ、身体を清潔に保つこと。

よっつ、適度な運動を心がけること。

いつつ、お酒は飲まないこと。

むっつ、煙草は吸わないこと。

ななつ、ストレスを溜めないこと。



朗々とした声で読み上げてから、総司の反応を窺う。

総司は何も言わない。

ただ、くりくりと丸く見開いた目が驚きだけを伝えていた。



「守れますか?」



「すとれすって?」



「ストレスはええっと、その――苛々したりうじうじしたり、心に良くない状態のこと」



そう解説すれば、こうも生活を制約されたんじゃ、すとれすは溜まる一方だと思うんだけどな、なんて口答えする。

あんた、普段どんな奔放な生活してんのよ……

そう難しいことを要求している訳じゃないと思うんだけど。

要は、規則正しい健康的な生活を送れってこと。



「何を言ってもダメ。以上の項目は厳守」



後は医師の指導に従いましょう。

分かった?守れる?なんて畳み掛ければ、五つ目以外なら、なんていう答えが返ってくる。

おいおい。



「お酒はダメ。絶対ダメ」



「……じゃあ訊くけど」



まるで妙なことを禁じられたと言わんばかりに困った顔をして総司は呟く。

お酒が飲めないなら何で空腹を満たせばいいの、と。



「はああ!?」



もしかしてあんた、お酒が主食だとか言うんじゃないでしょうね?

そんな私の問いかけに、流石にそこまでじゃないけどと苦笑っては見せるけど――

そこまでじゃないけど、近いものはある、と言いたい訳だ。



「お腹いっぱいになるまで食べたらバカになるからね」



……意味が、分からない。

その意思表示に首を振れば、いつ戦いになってもいいように食事は控えているのだと至極真面目な顔で返された。

本当に、こいつは。

戦う為だけに生きているというのか。

そこにしか自分の存在意義はないと、本当にそう思っているのだろうか。

そんなの、まるで道具じゃないか。

命削りながら道具みたいな生き方して、それで何になるっていうの?

ばっかじゃないの。

バカもバカ、大馬鹿者だわ。

前にも思ったけど、なんでこいつはこうも自分に執着がないのかな。

そのことがどれだけ周囲に迷惑と心配を掛けてるか、分かってんのかな。

バカみたいに心配させてること、分かってんのかな。

周りすら見えてないガキが。

ふつふつと怒りが湧いてくる。

怒りのまま、ぷつんと何かが切れた。

私は半ば無意識に冷笑を浮かべる。

ゆっくりと頬の筋肉が形を変えていくのを、まるで他人事のように感じながら。



「じゃあ、もういいや」



私には関係のないことだし、好きにすれば?

突っぱねるように言い放つ。

今のままの生活を続けていたら、いずれ新選組を離脱することになるだろうけど承知の上だよね、と。

だって総司に生きる意志なんてないんでしょ、と。

ぽろぽろ零れ出る嫌味に涼しい顔をしていたクセに。



「新選組なんて、ほんとはどうでもいいんでしょ?」



そう言った瞬間、ぞろりと部屋の空気が変わった。

総司の気配に険呑な色が含まれる。



「ねぇ、僕にケンカ売ってる訳?」



そんな縁起でもない例え話はやめなよ。

それとも僕に斬られたいって、そう言ってるの?

――ねぇ、美緒ちゃん。

その声音が本気で怒っている。

右手が刀の柄を握っていて、その言葉が脅しだけじゃないってそう言っている。

けれど、知らんふりをした。

斬れるものなら斬ればいいさ。

だって、私は間違ったことなんて何一つ言っちゃいないんだから。

前言を撤回することも、自分を曲げることもしない。

命乞いして、謝ってもらえると思ったら大間違いだ。

自分の意見を武力を以てして押し通すような幼稚な奴って、あの世から笑ってやる。

そんな強気に出そうなくらい、頭には血が上っていた。

本当は、総司がどれだけ新選組を大切にしているか分かってる。

どれだけ近藤さんを大切にしているか、それこそ耳にタコが出来そうなくらい聞かされてきた。

近藤さんの為に生きたい、そう思ってることも知ってる。

それ以外を蔑ろにしてでも、それを貫き通したいんだってことも知ってる。

でも、生き急ぐことは、その大好きな近藤さんを悲しませることだって、新選組を蔑ろにすることだって、どうして分からないかな。

単なる烏合の集団ならいざ知らず、家族みたいなもんなんでしょうが、あんたにとっての新選組は。



「縁起でもないと思うんだったらお酒は控えなさい」



ぴしゃりと強く言い放つ。

びりびりと張り詰めた空気の中で、互いに睨み合う。

目を逸らした方が負け、とでも言わんばかりに。

数秒か、数分か、数十分か。

どれ程の時間が経過したか分からなくなってきた頃、先に目を伏せたのは、意外にも総司の方だった。

はああ、とため息が追従する。

そして、吐き出された吐息が次第にくつくつと笑いに変わった。



「……ほんと、君って変わってるよね」



丸腰のクセに、鯉口切ってる奴相手に真っ向勝負だなんて、余程の大物かただのバカか。

君はどっちなの?

軽口を叩く口調はいつも通りで、私も何となく背中の力を抜く。



「僕に言えないくらい早死にするんじゃないの、君」



「ご心配どうも」



でもこちらの時代に物騒な切った張ったはないから、と言ってやれば、それもそうかと笑う。

ほんと、気持ちの切り替えが早いっていうか、なんていうか。

さっきはちょっと言い過ぎたかな、なんて反省しているけれど、からから笑う総司にどうにも謝るタイミングを見失ってしまったから心の中で謝っておくことにした。


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