「それにしても、急に冷え込んできたよな」
ついこの間まで、隊服着て昼の巡察するのがキツかったのに。
しみじみと季節の移り変わりを論じる平助はちょっとおじさんくさい。
「……変わっていくんだよな」
付け足すようにぽつりと言ったその言葉は、多分、季節のことだけを言った訳じゃないんだろう。
伊東さんが来てから、新選組の中はどんどんと変質していく。
本人は隠してるつもりみたいだけど、「伊東さんを誘った自分が悪い」と平助が気に病んでいるのは、みんな口にしないだけで周知だった。
「移ろいゆくのは人の世の運命でしょ」
「それは……そうだけど」
「季節も、僕らも、変わらない方がつまらないよ」
伊東さんが来て、何かが愉快な方向に変わったとは思わないけれど、世界が淀んでいる方がきっともっとつまらない。
全部が全部、変わっていく。
この場所も、僕も――
「史実通りになんて、死なせないから」
ふと、そう言ってぐしゃぐしゃの顔で笑う美緒ちゃんの姿を思い出した。
うん、これも変わったことのひとつだ。
遠からぬ未来に死ぬはずだった僕は、まだしばらくは死ねないことになった。
まだここに居られる。
まだ近藤さんの傍に居られる。
もっと先にある明日を望むことが出来る。
それは多分、喜ぶべき変化――だけど、あまり嬉しくなかった。
ううん、嬉しくない訳じゃない。
でも、狂喜する程でもない。
心の隅で疑っている自分が居るからかな。
うん、そうだ。
僕は美緒ちゃんの言葉を疑っている。
150年後の未来では、労咳は死病じゃない。
きっとそれは本当だと思う。
そんな笑えない嘘を吐く理由が美緒ちゃんにはない。
その場しのぎで僕を喜ばそうとする程、バカな子ではなさそうだし。
だから多分、美緒ちゃんの言う“現代の医学”に従っていれば、これ以上、急激に症状が悪化することはない。
けれど、労咳を治す為の根本も変わるものなのかな?
即ち。
安静は必要じゃないのかなってこと。
松本先生には新選組を離れて安静にしていろって、そう言われたから断った。
あちらの時代なら――?
(あまり期待し過ぎるのも良くないかもね)
もし松本先生が言ったのと同じように、安静が絶対条件なのだったら、僕はやっぱり断らなくちゃいけない。
それだけは譲れない、譲ることが出来ないから。
結局、望む道を進めば未来は変わらないのかもしれない。
全ては因果応報。
運命なんて信じちゃいないけど、或いは、人って生まれながらにして歩むべき筋道が大雑把に決められているのかもね――なんて。
こんな柄にもないことを考えるようになったのも、いつの日からか僕が変わってしまったからなのかな。
「ふぇ……っくし!っきし!」
派手な平助のくしゃみが僕の思考を現実へと引き戻した。
「平助が風邪なんじゃない?」
揶揄するようにそう言いながら平助に隊服を投げ返すと、僕は部屋に向かう。
そーかも、なんて情けない声で洟を啜りながら、同じように部屋に戻ろうとする平助の足音が後に続いた。
149/194