(“沖田総司”の死んだ日はいつ?)
史実の中の彼が死んだ日を知れば、逆算して、総司が今どの状態にあるかを正確に知ることが出来るんじゃないか。
そんな恐ろしい思いつきに身が震えた。
池田屋の事件が去年のこと。
それと照らし合わせれば、総司の人生における現在地が分かる。
強張る指で検索窓をクリックして、今度は“沖田総司”と打ち込む。
早期治療が大事。
さっき見た一文が脳裏にちらつく。
知りたくない。
見知った人の寿命なんて、絶対に知りたくない。
でももし、最期の日を知ることが出来たら。
まだ時間があるなら、ゆっくり対策が立てられる。
もう時間がないなら――なにも出来ずにただ単純に絶望を味わうだけなのかもしれないけれど。
それでも、急ぐか急がないかを知ることは重要な気がした。
早期治療が大事。
口の中でそう呟く。
以前、総司の発した“池田屋”をキーワードに検索を掛けて、総司の素性を知ってしまった時は、あいつを怒らせた。
あの時、もうこんな他人のプライベートを覗くようなこと、二度とするまいとそう誓ったけれど――今回ばかりは。
震える指で実行キーを叩いた。
ぱらぱらと表示された検索結果を直視出来ない。
見なさい、美緒。
そう、自分に命令しても、身体は、視線は動かなかった。
知りたくない。
でも知らなくちゃ。
相反する感情がぶつかり合う。
知って、どうするの?
もし、終わりの日が近かったとして、助ける手立てがなかったとして、その時にあんたはちゃんと笑える?
大丈夫だって笑って、総司を騙し続けられるの?
苦しい自問自答。
おろおろする自分を厳しく責めるもう一人の自分。
総司は聡い。
下手くそな私の誤魔化しなんてすぐに看破してしまうだろう。
助からないって分かったら、きっと無茶をする。
勝手に命の使いどころを見極めて、残った全部を簡単に手放してしまう。
そんなのは、いやだ。
私のエゴだ。
分かってる。
わがままでしかない。
それも分かってる。
けど、一緒に居たい。
ここじゃなくてもいい。
あちらの時代でもいいから、ちゃんと総司にはどこかで生きていて欲しかった。
かちり。
半分無意識に動いた手が、ウインドウを消した。
私は身勝手だ。
それでもいい。
後から総司に恨まれたって、仕方ない。
知っていることを知らないと言い張れる自信がないから、弱い私が総司を殺してしまいそうだから、知ることを放棄する。
考えろ、どうすればいい。
どうすればいい。
まずは病院を探さなきゃ。
――総司のことは一体どう説明するの。
お金も、もっと貯めなきゃ。
――もっとって、どれくらい?
大丈夫だからって、笑わなきゃ。
――嘘、下手な癖に。
私は大人だ。
ばあちゃんが居なくなってから、ずっとそう思ってきた。
一人で何でも出来るって。
どんなことでも一人で対処できるって。
でも、そんな訳なかった。
ほんの少し、親の手から離れるのが早かっただけ。
ほんの少し、自分で頑張ることを知っていただけ。
私はたかが二十数年生きてきただけの小娘だった。
出来ることなんてほんの少し。
たった一人の命を助けることすらままならない。
道を、見失っていた。
途方に暮れていた。
押し寄せる濁流に飲まれて、周囲は闇に閉ざされていた。
――息が、詰まる。
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