079 弟分▽side:総司
髪を弄る美緒ちゃんを見ていたら、懐に入れてはいつも忘れてしまう“あれ”のことを思い出した。
いつまでも持っておくのは邪魔だし、今だとばかりに取り出す。
うざったそうに髪を梳く彼女に近づいて、髪を簡単にまとめてやり、仕上げに“あれ”――いつか壬生寺で女の子から貰った結い紐で縛る。
赤は女を引き立たせる色。
だから京女、殊、花街の子達は好んで身につけていた。
小細工は不要と“あか抜けた”格好を好む江戸で育ってきたからか、京の女の子達の出で立ちは少し派手すぎるように感じたこともあるけれど――うん、赤も悪くないかもね。
美緒ちゃんを見て、そんなことを思う。
さばけた雰囲気の彼女には、ちょっとくらい派手で女らしい色の方がいいのかも。
そう口にしたら、きっと彼女は怒るだろうけど。
結った髪の型は気にしていたけれど、結い紐にまでは気づいていないみたいだったから何も言わないでおいた。
恩着せがましく、わざわざお返しだよって言うのも面倒だし。
(それにしても、変なの)
改めて彼女を眺めてそう思う。
ただ単純に結い慣れているから、という理由で僕と同じ髷を作ってみたけど、二人して同じ頭なんてちょっと可笑しい。
まるで、似てない兄弟みたい。
弟は勿論、美緒ちゃんの方。
だってそうでしょ?
子供みたいに脇腹をくすぐって夜露で濡れた庭中を転げ回るだなんて、発想が幼くないと出来ない。
僕に弟だなんて、おかしな感じだよね。
これまでずっと、どこにいたって僕は一番年下の“総司”だった。
勿論、新選組に新しい隊士が入ってくるようになってからは、面倒を見るべき“下”は出来たけど、部下と弟分は少し違うような気がした。
「総司?」
黙ったままの僕に違和感を覚えたのか、美緒ちゃんがことんと首を傾げてこちらを見上げてくる。
どうしたの、多分そう言いかけた口から盛大なくしゃみが飛び出したのは予想外。
そのあとに続く洟をすする仕草が、これまた余りにもおじさん臭くて、僕の喉からは苦笑が漏れた。
ああ、弟分なんてちょっと可愛い存在なのかも、そう思った僕が間違いだった。
こんなおじさんみたいなくしゃみをする子が弟だなんて、全然可愛くない。
濡れた身体をひんやりと冷やし始めた夜風に少し目を細めてから、僕は木刀を取り上げて立ち上がった。
「冷えてきたから戻ろうよ」
美緒ちゃんに手を伸ばして立ち上がらせると、そう促した。
黙って頷いた彼女は、ぎこちない足取りで先を歩く。
ああ、きっと明日は酷い筋肉痛に苛まれながら僕を恨むんだろうな。
そんな想像を廻らせて、少し笑った。
来月もまた木刀を持ってきたら、彼女は嫌な顔をするのかな?
文句を言いながらも、また稽古に励みそうだな、だって美緒ちゃんだもん。
楽しい気持ちを代弁するかのように、からりと木刀が音を立てた。
136/194