一体このお芝居はいつ終わるんだろう。
一つの話が終われば部屋が明るくなって、しばらくの休憩時間を挟んで、また新しい話が始まる。
真田十勇士の奮闘に息を詰めたり、色恋を中心にした町人喜劇に笑い転げたり、単調じゃない話の数々には全然飽きないと思ったけれど、美緒ちゃんはもう限界みたいだった。
さっきから、こくりこくり舟を漕いで、時折ぐらりと隣の人の肩にもたれ掛かっている。
困った顔でこちらを見て来るおじさんに目で謝りながら美緒ちゃんの体勢を立て直すけれど、隣のおじさんのことがよっぽど好きみたいで、目を離せばまたすぐそちらに倒れ込む。
ああ、全くもう。
美緒ちゃんの腕を引っ張って脇に挟み、もうほとんど意識のない頭を僕の肩の上に乗せた。
これならもう誰かに迷惑かけることもないでしょ。
――まあ、僕の左肩が重くて迷惑だけど。
剣戟の音に呼ばれて視線を幕の上に戻せば、芝居はちょうど派手な大捕物の場面だった。
敵味方の勢力が拮抗していて、なかなか勝負がつかない。
けれど、じわりじわりと敵方が優勢になり始めた頃、遅れてやって来た着流し姿の浪人が、あれよあれよという間に悪人を斬り伏せた。
勝ち鬨をあげる味方の間を縫って、町娘が浪人に駆け寄る。
涙を浮かべて微笑む彼女は、手にした小さな白い花を浪人にそっと渡した。
ああ、なんだかこの子の笑顔は千鶴ちゃんに似ているな。
そんなことを考える。
じゃあ、この浪人は土方さんか。
柔らかく笑う二枚目は、眉間に深い縦ジワを刻んでいるのが常の鬼副長とは似ても似つかなかったけれど。
先程までの緊迫した場面とは打って変わって、甘く穏やかな流れが続き、欠伸が出る。
‘えあこん’が効いて少し肌寒い部屋の中で、美緒ちゃんとくっついている部分だけがほこほこと温かい。
なんだか僕も眠たくなってきたな。
幕の中で千鶴ちゃん似の役者さんが一生懸命浪人に何か伝えようと口を動かしているのを、ぼんやりと眺めていた。
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