何度か勝負をしてから、僕は隣でずっと見ていた子に独楽を譲った。
うん、しばらく見ないうちにほんとにみんな上手になったな。
まだきゃっきゃと騒ぎながら勝負を続ける子供たちを眺めながら僕も笑顔になる。
お寺の本堂に続く階段に腰かけて休んでいたら横から袖を引かれた。
「総ちゃん見て」
さっきまで隅の方で静かに男の子たちが独楽を回すのを見ていた女の子達の中の一人がままごとから抜け出して来て、ちょこんと僕の隣に座っていた。
見て、と言って小さな両手が差し出してきたのは紅と碧の結い紐。
「かあさまがね、私にくれたの」
「そう。綺麗だね」
そういってやると、少女はぱっと表情を明るくする。
「これね、総ちゃんにあげる」
「君がお母さんにもらったものなんでしょ?いいの?」
「いいの!」
総ちゃんにあげたくて持ってきたんだから!
そう言いながら小さな手が二本の結い紐を僕にぎゅうぎゅう押し付ける。
小さな手は少し湿っていて、すごく熱い。
ありがと、と声を落として受け取る。
「あのね、紅いのは千鶴ちゃんにあげて」
「千鶴ちゃん?」
「うん」
どうやら、彼女も時折ここに来ては女の子たちに遊んでもらっているらしい。
自由のない彼女が監視の目から離れないまま息苦しい屯所から離れて気の休めるにはここがもってこいだよね。
わかった、と言いかけてから思い直す。
「ねぇ、これ別の子にあげちゃダメかな?」
「別の子って?」
少女は不思議そうに首を傾げる。
そうだよね、屯所に女の子は千鶴ちゃんしかいないんだから。
「僕の――友達。生意気で可愛くない子なんだけど、この前ご馳走になったんだよね」
そのお礼。
そう行った僕に、彼女は目を輝かせる。
「それって総ちゃんのいい人?」
「ええ?」
「総司、いい人いるのか?」
耳聡くそれを聞きつけて、わらわらと子供たちが集まってくる。
みんなマセてるなぁ、なんて苦笑が漏れる。
「そんなんじゃないよ」
そう言っても、子供たちは聞いていない。
どこの誰だ、どんな人だと子供らしい無邪気さで追及してくる。
それをのらりくらりとかわしていたら、最初に僕に結い紐を手渡してくれた子が「頑張ってね」なんて耳打ちしてくれた。
ほんともう、困っちゃうな。
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