家を出て静かな住宅街を抜ければ、シャッターの閉まった商店街に突き当たる。
商店街に入らず、郵便局を右に見ながら角を曲がり、県道沿いにしばらく歩けば、すぐにコンビニが見えた。
家からはそれほど遠くはないけれど、それほど近くでもない場所にあるこのコンビニは、夜にわざわざ一人で出てくるにはちょっと億劫な距離。
けれど、最近食べたアイスの新製品が美味しかったとか、新選組には宴会担当の喧しい三人組がいるだとか、とりとめのないお互いの日常を披露しながら二人で歩けば、思ったよりもすぐ着いた。
明るい店内で、食パンと二人分の飲み物を買って店を出る。
何度か見ている筈なのに、ビニール袋が珍しいのか、荷持ち役を買って出た総司に袋を預けた。
音もなく降ってくる月の光を頭の天辺で受け止めながら、涼しい夜道を歩くのは気持ちいい。
コンパスは長い筈なのに、やたらとのんびり歩く総司に合わせて、いつもより遅めになる歩調も苦痛ではない。
爽やかな空気の中をもう少しこうしていたくて、郵便局のある角を商店街の方へ曲がった。
「あれ、帰り道はあっちじゃないの?」
立ち止まった総司が私の袖を引く。
「もうちょっと散歩しようと思って。どう?」
そういうことかと彼が頷くのを肯定と取って、商店街の中へ歩みを進める。
数年前に老朽化したアーケードを取り払った商店街は、月明かりがダイレクトに差し込んできて明るい。
目の前に落ちた二つ分の影を踏みながら、こういうのが幸せなのかなって思った。
静かで、穏やかで、満たされた気分。
「ねぇ、あれ何?」
くいっと袖を引かれて、総司の指先を追った。
眠っている商店街の一角だけ、小さな灯りが落ちていて、人の出入りもちらほら。
道に向かって飛び出した看板にはレトロな文字で記された映画館の文字。
明日は日曜だし、オールナイトでもやってるかな。
「行ってみよう」
袖をつまんだままだった総司の手を取って小走りにそちらへ向かった。
古めかしい造りの入り口はひどく狭いのに、幾つかの立て看板が更にその幅を狭めていて、人一人通るのがやっと、という風だった。
べたべたと貼られたポスターはどれも聞いたことのないような作品ばかり。
知っているタイトルの作品は、どれも画面がモノクロの、所謂不朽の名作ってやつ。
さっきから出入りしている人の年齢層が随分高いことにも頷ける。
多分ここは、おじさまたちの青春時代がたっぷり詰まった場所なんだろう。
生まれた時代を考えれば、その辺のおじさまよりも余程ご高齢である総司が一生懸命眺めていたのは、着物を着た人が沢山映った時代モノ。
ちょうど、今夜上映のものだった。
「興味ある?」
「よく分からないけど、ここは――芝居小屋?」
まあ、当たらずしも遠からず。
映画がどういうものかを簡単に説明するのもいいけれど、見た方が理解は早いかも。
まだ宵の口だし時間はたっぷりある。
たまにはこういう夜もいいかもしれない。
総司を引っ張って、狭い入り口をくぐった。
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