059 リベンジ▼side:美緒
「あ、友梨?」
結局、あれから嫌がる総司をねじ伏せて何戦も打ち合ったけれど、私の武蔵が勝つことはなかった。
悔しいけど、全敗した。
惜しい、なんていう局面は全くなくて、いっそすがすがしいくらいの負けっぷりだった。
今に見てろ。
次に勝つのは私だからな!
そう吠える私に憎たらしいニヤニヤ顔を残して、あいつが帰ってしまった後、軽く眠り、出社前に友梨に電話した。
用件は勿論‘あれ’のことだ。
罰ゲームの、ガトーショコラ。
ああ、なんであんな要求を飲んじゃったかな。
悔しさが余計に募る。
我ながら、らしくない。
絶対家庭的な旦那さんを貰う!そして私が稼ぐ!そう豪語してきた私。
そんな私が、まさか「お菓子作りのコツをご教授下さい!」なんて言いながら友達を頼る日が来るだなんて誰が予想出来ただろう。
きっとお空の上のばあちゃんでも無理だったと思う。
案の定、受話器越しに友梨の困惑した声が聞こえてくる。
「教えるのは別にいいけど……一体どうしちゃったの?美緒がお菓子作りなんて」
言外に有り得ないと言っている。
亜矢ほど毒舌ではないけれど、この子の物言いもかなり容赦ない。
まぁ、気心知れた仲だからこそなんだろうけど。
「ちょっと人に頼まれちゃって」
「頼まれた?……あ」
例の彼におねだりされたんだね?
微かに笑みを含んだ声がそう歌う。
それに曖昧に頷きながら、頬の熱が上昇するのを感じた。
ああ、なんだろうこの恥ずかしさというかなんというか、修学旅行の晩に好きな人を打ち明ける時のような気分。
いや、罰ゲームとは言え、慣れないことをする自分が気恥ずかしいんであって、断じて好きとかそういうのではない。
そりゃ、あいつはちょっとそこらに居ないくらいかっこいいし、実はああ見えて結構優しいし……
いやいやいや、ないないない。
甘酸っぱそうな雰囲気に流されてる。
だって総司だし。
生意気で小憎たらしいお子さまだし。
頭の中の血迷った考えを全力で拭いながら、友梨先生によるガトーショコラ講習会の約束を取り付けた。
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