「そうだな……じゃあ、あれ食べたい」
がとーしょこら。
そう言えば、眉を顰めた美緒ちゃんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をする。
「……この前失敗したの知ってる癖に」
「だから挽回の機会をあげるって言ってるの」
「うわ、生意気」
そう言って美緒ちゃんは笑う。
その笑顔が妙に幼くて、なんだか憎めない。
ずるいよね、そういうの。
なんだか負けたような気がして、目の前で酸っぱい顔をして唸る彼女を軽く睨んだ。
唸ることに必死で、全然気づいてないけど。
「ん――……わかった!」
勢いよく彼女は顔をあげる。
「今日は材料がないから無理だけど、次来る時までに作っといたげる」
という訳で、もう一戦しようか。
黒い駒を目線の高さまで掲げて、にんまり笑う。
また?
そんな僕の声は無視される。
さっきの「もう一回だけ」なんていう言葉も丸々無視で、美緒ちゃんはまた、盤上に駒を並べ始めた。
もう既に次の作戦を練り始めているのか、その顔はえらく神妙だ。
「ねぇ。また負けて、もっと僕に命令して欲しいってこと?気持ち悪いなぁ」
「ちょっと、変態を見るような目で私を見ないでよ」
「変態にしか見えないんだけど」
「断じて違います!」
いたぶられて喜ぶような趣味はありません!
そう言いながら、美緒ちゃんは白い駒を動かし始めた。
結局、僕が何を言ったって気にせず始めるんだね。
あーあ、ちょっとぐらい苛めないとこっちが割に合わないと思うんだけど。
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