望月の訪問者 | ナノ




くっそ、あいつ。

チョコの美味さに土下座させてやる。

炭だって言ったことを後悔させてやる。

若干の話の矛先を間違えながら、復讐心に燃える心でコンビニへとひた走った。

明るい店内には、若い店員さんが二人と雑誌コーナーで週刊誌を立ち読みしているスーツ姿のおじさんが一人、いちゃつきながら惣菜を物色している派手めのカップル一組。

勢いよく飛び込んできた私に驚きの視線を寄越してきた片方の店員さんの「いらっしゃいませ」という間延びした声を無視してレジ前の特設コーナーに足を運ぶ。

棚の上の方には派手なラッピングを施した、有名店の高級チョコがずらり。

中段のキャラクター系を通り越した私の視線は、下の方にひっそりと陳列されている安っぽいチョコの上で止まった。

それはささやかな逆襲。

安いやつしか買ってやんない。

私のガトーショコラを拒んだ罰だ。

毎年見かける、いかにも義理って感じの100円チョコを取り上げてレジに向かう。

安物チョコで感激するあいつを嘲笑ってやる。

お安い舌ねって嘲笑ってやるんだから!

何か言いたげな店員さんの視線を丸無視して会計を済ませ、店の外に出た。

北風の吹き抜ける二月の夜道は、色んな意味で寒い。

月が明るい分、なんだか余計に寒かった。

男なら「暗いのに一人歩きは危ないよ」くらい言って追いかけてこい、バカ。

心の中で毒吐いてコンビニの袋を振り回しながら家に向かう。

びゅう、とひと際強く吹き付けた風に身を縮める。

暖房の利かない台所で作業する為に、厚手のジャージを着ていたから、そのまま出掛けても大丈夫だろうと高を括ったのがいけなかった。

やっぱり台所は冷えても室内。

屋外の気温の低さとは雲泥の差がある。

……走るかな。

走った方がちょっとくらい身体も温まるだろう。

それに、早く家にも着く。

急いで帰って来た、だなんて総司に思われるのは癪だったけど、寒さにはかえられない。

ぎゅっぎゅと脚の筋肉を伸ばして、円い月を横目に、私は来た道を駆け出した。


94/194




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -