「ねぇ、なんでこんなことするの?」
炭だよね、これ。
僕が炭なんか食べるとでも思ったの?
既に怒りに満ちている総司の声が静かな台所に響く。
それを睨み返す私だって相当腹立ってるんだから。
あんたなんか怒ったって全然怖くないんだから。
「だから、炭じゃないって言ってんでしょ」
「これのどこが炭じゃないの。どう見たって焦げ過ぎだと思うんだけど」
「ううううるっさいな!人が折角……折角あんたが喜ぶと思って作ったのに!」
折角作ったのに、説明書が不親切だから分量間違うし、なんでか全然写真通りにいかないし、挙句に真っ黒焦げになるし。
ただ、へばってた私を一生懸命看病してくれた総司が嬉しかったから。
嬉しかったから、いつかのあんたみたいに「僕の恩返しだよ」って言って、チョコプレゼントしてびっくりさせて喜ばせたかっただけなのに。
あんまりじゃないか。
「炭なんか」って言うな!
これは炭なんかじゃない……炭なんかじゃなくて……
「炭だよ、ばかぁ――!」
いきなり絶叫した私に総司が身をすくませる。
そうだよ、炭だよ!
焦げちゃったんだもん。
炭になっちゃったんだもん。
仕方ないじゃん。
上手くいかなかったんだから!
初心者にはこんなの……こんなの……
「……っ」
粉とチョコまみれのエプロンを脱いで総司に向かって投げつけると、自分の部屋へ突進する。
机の上に放り出したままの財布を取り上げて、ジャージ姿のまま私は外へと飛び出した。
あああ、もう無茶苦茶だこれ。
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