「……ん?」
ぱっと眼を開けると、焦点を結べないくらい近くにある翡翠色。
額にはひんやり冷たい総司の額がくっついている。
それがそっと離れて、私の視界は明るくなった。
「やっぱりひどい熱。無理しないで寝てなよ」
総司の言葉が耳から脳に到達して、その意味を理解した瞬間、顔が熱を持った。
今のあれは、ただ単に熱を測るだけで――
ははははは恥ずかしいいい。
なに?
何、今の?
私、今とんでもない勘違いをしなかったか?
キスされるとか思わなかった?
嘘だ。
こんなの嘘。
絶対嘘だ。
誰か嘘だと言って!
少女漫画じゃあるまいし。
どうなってんだ私の脳内。
万年お花畑かフローラルか!
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
一体どんな勘違いしてんだよ。
有り得ない有り得ない。
ああ、もう、消えてなくなりたい!
穴があったら入りたい。
掘ってでも入りたい。
今すぐここから消え去りたい。
あああ、誰か電気を消して!
もう白日の元に晒されてること自体が苦痛だ。
白熱灯だろうと、LEDだろうと、明るい光の下にいるのが苦痛ううううう!
「……美緒ちゃん?」
錯乱している私を、呆れ半分心配半分に総司が見下ろしてくる。
呆れ半分、心配半分。
その瞳の中には、それ以外の感情は見当たらない。
もしかして、気づかれてない?
気づかれて、ない。
あああ、何たる幸運!
あんな至近距離にいたんだもん、私の表情の変化なんて見れる訳ないんだから気づかれてないよね。
そうだよね。
一般的に考えてそうなんだよね。
ていうか、そうであって欲しい。
そうでなきゃ、今すぐ死ねる。
恥ずか死する。
もう一度、その事実を確認しようと思って総司の表情を盗み見たら、ばっちり目が合った。
にこにこ笑っている、穏やかな顔。
「葛根湯とかないの?」
「い、いい。要らない」
それどころじゃないんだ、今の私は。
「何?」
「……別に」
「顔、真っ赤だけど」
「熱のせいじゃない?」
「ふうん、そう。ところでさ」
「なに?」
さっき、襲われるとでも思った?
そう言った、きらっきらの笑顔。
あああ、やっぱり今すぐ消えてなくなりたい。
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