望月の訪問者 | ナノ




コンビニを出て、電車に乗る。

ぼんやり考え事をしながら、ごとごとと二駅分揺られた後に改札を出た。

冷たい風が私を出迎えたから、思わず身をすくめる。

こちらの駅前も簡単に木々が電飾で飾られているけれど、もともとそれほど人の出入りの多い街じゃないから、さっきみたいに屋外でいちゃついている寒いカップルもいない。

それにしても、我ながらよく我慢していると思う。

帰り道、相変わらず不快な目をぱちぱちしながら空を見上げた。

何を我慢してるかって、お酒の量。

この前、総司と腹を割って話そうなんて目論見で深酒をして痛い目にあったからね。

総司がどういう風にタイムスリップしてくるか、なんて放していた頃はまだ余裕で大丈夫だったのに、結局その後悪酔いして、気持ち悪くなって、トイレに籠った。

呆れ顔の総司に水を持ってきてもらったり、背中をさすってもらったり。

「いい大人なんだから自分の限界くらい弁えてよね」なんて冷たい口調で言われたのは痛かった。

なんであいつはこう、生意気なんだろう。

しかも正論だから余計に腹が立つ。

介抱してもらうのが申し訳ない、という気持ちよりも悔しい気持ちの方が遥かに大きかった。

このやろう、もう二度と飲むもんか。

あの時、私は誓った。

固く誓った。

まぁ、社会人として一滴もアルコールを摂取しないなんていうのはどだい無理な話で、そんな誓いは一週間後に破ってしまったんだけど。

まぁそれでも、今年の私は本当にらしくないくらいお酒の量をセーブ出来ている、と思う。

頬に苦笑を浮かべ、ごろごろと不快な目を擦りながら回想する。

今までだったらこの時期は、連日深酒に次ぐ深酒で、見知らぬ人に迷惑を掛けながら家まで送り届けてもらうのが常だった。

一度“飲める子”のイメージを持たれちゃうと、どうにも期待に応えなきゃいけないような気がして、ついつい飲み過ぎる。

お会計までは全然大丈夫なんだけど、皆と別れて帰り道に一人になったら気が抜けるのか途端に酔いが回り始める。

電車の中が一番危険。

大抵、隣に座った人に絡んでる。

ばあちゃんが居なくなってからはそんな私を叱ってくれる人もいなくて、流れに流されて一夜の過ち、なんていうのも一回や二回ではなかった。

そうやって、崇史とも出会って、ずるずる付き合って、うやむやになった。

捨てそびれたまま押し入れに眠っていた軽薄な衣装の持ち主を思い出す。

あいつ、今頃どうしてんのかな。

もう二度と会いたくない、とは思っていたけれど、この前、総司があの軽薄全開な服を着ているのを見たら、妙に懐かしくなった。



(たったビール二杯で酔ったのか?)



そんな自分が可笑しくて、夜道を一人で歩きながら笑いを零す。

ああ、我が家が見えてきた。

私の部屋に灯りがついている。

総司はもう来てるんだな。

当たり前か、もうこんな時間だもんな。

やっぱりいいな、誰かの居る家に帰るっていうのは。

そんなことを思いながら玄関を開けて、自分の部屋に向かった。



「ただいまーって寒っ」



部屋に続く襖を開けて驚く。

灯りはついているのにストーブはついていない。

室外とほぼ変わらない気温に顔を顰めた。



「ストーブつけなさいよ、寒いじゃん」



手早くストーブに火を入れた。

よくこんな寒いところで待ってられたな。

あろうことか、部屋の中じゃなくて縁側に座ってるし。



「熱逃げるから部屋に入って障子閉めて」



ストーブの熱で乾燥した目をまたぞろ擦りながら、月を見上げる総司を部屋に呼び込んだ。


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