044 酒量減▼side:美緒
師も走る忙しい十二月。
勿論、私も忙しい。
お得意先の接待で、部署内で、同期で、内輪で。
この季節と言えば、鍋で、ビールで、忘年会。
たぷたぷと膨らんでいくお腹とは裏腹に、財布はすごい勢いで薄くなっていく。
うら若き乙女として、なんだかすごく間違った方向に進んでいる気がしなくもないけど、まぁ、今だけは忘れることにする。
「なにしょぼくれた顔してるの、景気悪いわね」
「しょぼくれ……失礼な」
注文したつまみを適当に取り分けながら、亜矢が脇腹を小突いてくる。
連日の飲み会で既に胃と肝臓は休息を必要としていたけれど、気の置けない学生時代の友人達と集まるとなると、後一日くらいは、なんて思ってしまう。
相変わらず、安っぽい居酒屋でアルコール分の少ないお酒を掻っ喰らっているけれど、まぁさほど不味いとも思わない。
友梨に続いてまた一人、来年の夏には結婚するだなんて報告をしたから、その幸せそうな甘さに酔わされてるのかもね。
(総司、待ってるかな)
こっそり時計を確認したら、亜矢に見つかった。
「あんたさっきから時計ばっかり気にしてるじゃん。男でも待たせてんの?」
「そ、そんなこと」
情けなくも声がひっくり返る。
「そんなこと、あるんだ?」なんて、顔中ににやにやを貼り付けた面々に迫られる。
「なんかあるとは思ってたんだよね」
「わかる!美緒ってば最近、妙に色っぽいし」
「そーか、男か」
「遂にか」
矢継ぎ早に捲くし立てられて、なにも言えないまま辟易していたら、いつの間に取って来たのかバッグとコートを抱かされていた。
ぐいぐいと部屋の外へ押し出される。
いやいや、注文したばっかりの焼酎がまだ半分以上残ってんだってば。
今日はまだ全然飲み足りないし。
「彼氏待たせちゃダメじゃん」
「そうそう。これを逃すと彼氏なんてできないかもしれないのに」
失礼な。
でも、その気遣いを素直に受け取ってみようか。
相変わらずニヤニヤしている悪友たちの視線を感じながら、パンプスに足を突っ込む。
多分、あいつがひとりぼっちで待ってるから。
仕方ないから帰ってやる。
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