043 主のいない家▽side:総司
「まだ起きてたのか」
飾窓からぼんやり空を眺めていたら、通りかかった土方さんがしかめっ面して見せた。
「あんま風に当たってっと風邪ひくぞ」
まるで、幼い子供に言うみたいにそう注意してみせた土方さんにとって、未だに僕は宗次朗のままなのかもしれない。
近藤さんと言い、土方さんと言い、本当にいつまでも過保護だよね。
自分の部屋へと戻っていく窓枠に肘を乗せて、頬杖をつく。
今日はいつもより遅いな。
そんなことを考えながら、もう随分高い位置にある月を眺める。
今頃彼女は何をしているだろう。
そんな想像に小さく笑みを零しながら、いつもの眩暈が訪れるのを待った。
「あれ、真っ暗」
いつもの轟音を通り過ぎて、いつも通り足元に畳を踏みしめる感覚が甦ったのに、いつものように視界は明るくならなかった。
闇に慣れた目には、見慣れた美緒ちゃんの部屋が映る。
なんだ、出掛けてるのか。
真っ暗な部屋は冷たく、静か。
灯りのない部屋でぼんやりしているのも退屈だったから、仏壇の前においてある座布団を抱えて、月の見える縁側に出た。
空のずっと高いところにぽっかり月が浮かんでいる。
(帰って来るかな)
どうだろう。
まぁ、どっちでもいいけど。
床板の上に座布団を敷いて、腰を下ろす。
この家はいい。
縁側には全部、薄い硝子の戸がはまっているから、真冬の北風が吹きつけて来ることがない。
それでもやっぱり、ほんの少し寒い。
お酒でも持ってくればよかったかな。
そんなことを考えていたら、ゆっくりとした美緒ちゃんの足音が近づいてきて、玄関が開いた。
「ただいまーって寒っ」
冷気で真っ赤に頬を上気させた顔が笑う。
なんだか、その笑顔を見ただけでほんの少し温かくなった気がした。
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