042 時渡りに関する考察▼side:美緒
何だかふわふわ気持ちよくって、私は始終へらへらしぱなっしだった。
よく分からないけれど、いつの間にか総司もニコニコしていて、それが嬉しくて、もっとへらへらした顔になる。
いつの間にか、話題は総司のタイムスリップのことに移っていた。
満月の夜にそれが起こる、というのは互いに一致した認識。
じゃあタイムスリップってどんな感じなのって訊ねたら、いつだってまず酷い眩暈に襲われて、それから沢山の声が轟音になって聞こえる真っ暗な闇の中を通る、と教えてくれた。
「こっちはそんな音聞こえたことないなー」
酔って、やや間延びした口調になっているのを自覚しながら総司の登場と退場について思考を巡らせる。
来る時はまず、その部分の空間が歪む。
透明の歪みがどんどん凝縮して、濃くなって、色がついて目の前にいる総司の姿になってようやくあんたは動き始める。
変える時は全くの逆で、まるで電池のなくなったロボットみたいに総司の動きが止まったと思ったら溶けるように色が薄れていって、透明になって、消える。
「透明の間、僕のことは触れるの?」
「触れないんだよー、それが」
一体どういう仕掛けなのか気になって手を伸ばしてみたこともある。
けれど、いつだって現れるのは突然だし、消える時もあっという間に消えてしまうから私の手が透明になった総司に触れる前にそこにはなにもなくなってしまう。
「じゃあ、こうやって手を握っていたら、その感触を確かめられるかな」
何となく握ったままにしていた手をぷらぷらと振って総司は言う。
確かに、ずっと総司に触れたままなら、消えていく感触が分かるかもね。
でも、と総司は悪戯っぽく笑う。
「もしかしたら、美緒ちゃんも一緒に彼方に帰っちゃうかもね」
「はい?」
「だってほら。初めて来た日、あの火立を握ったまま気づいたら僕は自分の部屋に戻ってたし」
あの火立、と仏壇を指す。
ああ、そんなこともあったっけ。
ということは、私もあっちの時代へ行っちゃう可能性があるってこと?!
それは困る。
総司みたいに一晩とかならまだしも、一回行ったらひと月は帰って来れない。
仕事はどうすんだ。
急に連絡がつかなくなったら、きっとかあさんや亜矢たちも心配する。
「来てみる?」
クスクス笑いながら総司は繋いだ手にぎゅっと力を込める。
じょじょじょじょじょ冗談じゃない!
慌てて腕を振りほどいた。
連れていかれてたまるもんか。
「気が向いたらいつでも連れてってあげるからね」
そう言って綺麗に笑った彼を私は思いっきり睨みつけた。
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