望月の訪問者 | ナノ

041 彼女は白です。


▽side:総司



「家に帰ったら浴びるほど飲んでやるから」



そう言って不敵に笑った美緒ちゃんに嫌な予感しかしなかった。

そんな予感ほど的中するものだよね。

彼女の仕事の話や、此方の時代の情勢なんかの話が出来たのは初めの半刻だけ。

酒瓶が丸々一本空いた頃には、美緒ちゃんは既にご機嫌だった。

にゃんにゃんと、いつか聞いた迷子の子猫が鳴き続ける歌を大声で歌っている。

うん、僕はこれを知ってる。

この後に待ち構えているのは面倒臭いやりとりだ。



「こら、そーじもちゃんと飲みなさい!」



「……飲んでるよ」



「飲んでなーい!さっきからカリカリカリカリ金平糖ばっか齧って。蟻にでもなるつもりかー!」



そう言って、どしんと僕にもたれ掛かって来たと思ったら、今度は蟻の歌を歌い出した。

急いでおつかいに行く蟻さんの歌。



「美緒ちゃん、子供みたい」



「うるっさいなぁ!私は立派な大人ですー」



そういう言い方が子供っぽいって言ってるのに。



「僕と遊んでくれる子達の方が、君よりずっと大人だと思うよ」



「なに、子供に遊んでもらってるの?なんだ、そーじの方が子供みたいじゃん」



「……そうかもね」



「私とももっと遊ぼうよー」



急に僕の手を握ってぶんぶんと振り回す。

さっきまでの上機嫌が影を潜めて、急に拗ねたような口調。

子供っぽいのは相変わらずだけど。



「そーじは私のこと知らないから不安だって言う。でも私だって同じ。そーじのこと分かんないから不安だ」



でも、そーじは秘密主義だしさー

別にいいけどね、私の彼氏じゃないんだし。

繋いだ手を無茶苦茶に振り回しながら独り言みたいにそう呟く。

不安だって言った覚えはないんだけどな。

まぁ、捉えようによったらそういう風にもとれるかもね。



「じゃあ君は僕の何を知りたいの?」



そう問い返せば、彼女は低く唸り始める。

ひとしきり首を傾げてから、ぱっと表情を変えた。



「日常」



「日常?」



「そ」



どんな場所で、どんな生活をしてるか。

何を見て笑い、何に腹を立てるのか。

そういう、普段のそーじを知りたいんだ、私は。

今度は僕が首を傾げる番だった。

僕の日常を知って、それでどうするの?

確かに、その人の生活が見えてくれば、その人の人となりも見えて来る。

でも、彼女が言ってるのはもっと違う意味の様に思えた。



「私はねー、あんたと友達になりたいんだ」



ぎゅっと僕の手を握る手に力を込める彼女と正面から見つめ合う。



「折角知り合ったのも何かの縁。満月の晩に必ず会わなきゃいけないんなら、気を許してお酒飲み交わしたりバカ騒ぎしたり出来る普通の友達でいたいんだー」



真っ直ぐな目の中に偽りはない。

ああ、うん、そうだね。

僕の勘が彼女は大丈夫だとそう告げていた。

僕はこの目を信じる。

信じられる。

だって、人って酔っ払った時が一番素直でしょ?

だから、信じていいと思うんだ。

ねえ、山南さん。

答えが出ましたよ。



彼女は……白です。


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