着替えた総司を車に乗せて、取り敢えずはエアコンやらオーディオの使い方を一通り説明した。
人や馬が引いている訳でもないのにどうして車が走るの、なんて訊かれた時にはどう答えればいいものか悩んだけれど、まぁなんとか乗り切った(エンジンやらなんやらのからくりなんて説明出来る訳ないじゃん)
散々質問攻めにされた後、悩みに悩んだ末向かったのは、深夜まで営業している大型スーパーだった。
さほど都会じゃないんだから、夜遅くまで遊べるような場所なんてそれほど多くないし、第一、こいつを人の多い場所に連れていくのは抵抗があった。
他人と接触する機会が増えれば増えるほど、何が起こるか分からないからリスキーだし。
まぁその点、刺激には欠けるけど、夜間は人の少ないスーパーなら心配ない。
たかがスーパーでも珍しいものの塊だったみたいで、遊園地に来た子供みたいに目を輝かせながらおっかなびっくりその辺を探索する姿は可笑しかった。
いつもこんな無邪気でいてくれると助かるのに。
「ここ、何?ものすごく五月蝿いんだけど」
「楽しく買い物する為の音楽」
「こんなのがいいの?落ち着かないなぁ」
店内に流れるBGMに顔を顰めながらついてくる総司に買い物カートを預けて、酒類の並ぶ一角に向かう。
前に、ナントカさんち秘伝の苦くて不味い薬を飲まされた時、平気な顔で日本酒を呷ってたから、まぁそれなりには飲めるんだろう。
ぴりぴりする、なんて文句を言いながらビールも飲み干してたし。
お酒の力に頼るのは情けないとは思ったけれど、お酒の力がないと切り抜けられない。
総司は比較的いつも通り小憎たらしくて生意気だったけど、地雷を踏みまくった手前、どうにも気持ちが委縮してしまって、やっぱりどこか気まずい。
ここに来るまでの道中、車内に沈黙が落ちる度、居た堪れない思いでいっぱいだった。
ドライブは早々に切り上げて、酔っ払ってしまった方がきっと色々喋れる。
「あんた、好きなお酒とかある?」
大小様々な瓶を珍しそうに眺めていた総司に声を掛ける。
「特にはないよ。上から貰える俸禄も多い訳じゃないし、普段飲むのはその辺で手に入る安酒ばっかだし」
取り敢えず昔の人だから、洋酒よりも日本酒や焼酎の方がいいかな。
「日本酒は甘口?辛口?焼酎なら麦芋どっち?」
「じゃあ、甘口。焼酎はよく分かんないや」
希望に沿って甘めの銘柄をふたつと、微炭酸のカクテル系を十本ほど見繕った。
あとは家にある分足せば酔い潰れるには充分だろ。
適当にお菓子なんかも幾つかカートに放り込んで、お会計をした。
「なにこれ」
「あんたはなにこれしか言えないのか」
「じゃあ美緒ちゃんは見慣れないもの見てなにこれって言わないの」
それは、ちょっと否定出来ない、かも。
「申し訳ございません私が悪うございました」
「うん、別にいいよ。で、これなに」
ええい、小憎たらしい。
総司の言うこれ――お金を1円から500円まで一枚ずつ手渡す。
1円って何両?なんて聞いてくるけど、知るかそんなもん。
白米をお茶碗一杯分で100円くらいって言ってやったら、分かったような分からないような顔をしていた。
「まあいいや」
その言葉を合図にお金への興味が失せたらしい。
一体何の為に私は解説させられたんだ?
ずっしり重いスーパーの買い物袋をひとつずつ持って車に戻る。
長躯を折り曲げて助手席に収まった総司は、ニコニコしながら金平糖を取り出している。
「美緒ちゃんも食べる?」
ずいっと勧めてくれたけど、生憎私はお酒に甘いものは受け付けない。
そう答えると、わざわざ一升瓶の栓を抜いて渡してくれた。
飲めと。
飲酒運転しろと。
家に帰ったら浴びるほど飲んでやるから今は要らないと押し返せば、あからさまに嫌な顔された。
「程ほどにしてよ、迷惑だから」そんなことをうそぶく。
なんでだ。
あんたに迷惑をかけた覚えはない。
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