これから先も、ただ一途に愛してる 燭台切光忠はとても変わった刀だった。 世話好きで、人当たりもよくて瞬く間に本丸に馴染んでいった彼はきっと人間だったなら出世するタイプだと思う。 けど、女の趣味は最悪だ。自分で言うのもなんだけど、こんな色気も魅力もない女のどこを気に入ったのか、隻眼の伊達男は私が好きだとのたまった。 最初に彼の異変に気づいたのは彼が来て2ヶ月ほどがたった頃だったろうか。やけに私に構うようになったのだった。 先に断っておくが、初期刀も初鍛刀した子もいわゆるレアだと言われる子でさえ私は特別扱いしたことはなかった。理由は簡単、誰かを贔屓すべきではないと思ったからだ。贔屓することと差別することは言い方が違うだけで同じことだと思っているし、それは仮にも神である彼らに対して失礼だと思うのだ。 更にややこしいことに私は人間であるが主だし、彼らは神であるが私が使役する刀なのだ。上下関係さえあやふやでどうしたものかと悩んだ結果、彼らの望む通りの関係を保つことにした。それはきっと無関心に映ったことだろうと思うが、情をやつすべきではないとこの時の私は思っていた。 話を戻そう。彼を近侍に指名した日から頻繁に私を訪れるようになった。ある日は茶菓子を持って、またある日は庭に咲く花を持って。別に悪い気はしなかったが妙だとは思った。だから尋ねたのだ。 「光忠、貴方は毎日のように私に何かを持ってきてくれるけどどうして?」 「それは……僕は主のことが好きみたいなんだ」 「へぇ。光忠、人間の真似事もそこそこにしておかないと貴方が汚れてしまうかもしれないよ」 「主の為に汚れるなら構わないよ僕は」 この時ははっきり言って光忠に対して何の感情も抱いていなかった。ただの1振りに過ぎなかった。 しかしこの後も毎日毎日、何かを持ってきては私のことが好きだと告げてうっとりするような顔で微笑むから徐々に私の気持ちも動いていって。それから更に1ヶ月後、彼に根負けする形で受け入れてしまった。 「わかった、もう光忠の気持ちはよくわかったから。もう毎日来なくてもいいよ」 「え……それって、僕が迷惑だからかい?」 「違う、そうじゃなくて。光忠の気持ちが嬉しいと思うようになったの」 「それじゃあ僕と恋人になってくれるのかい!?」 「まぁ、そうなるのかな」 「ありがとう主!あ、できれば名前で呼びたいけどダメかな?」 「……姫乃」 「姫乃、素敵な名前だね。好きだよ」 「でもね、光忠。私なんて何の価値もないそこら辺に転がってる小石のような存在よ。貴方が思っているほど私はいい人間じゃないわ」 受け入れるつもりが突き放すようなことを言ってしまったこと、今でも少し後悔している。でもそれは紛れもない事実だから仕方がないといえばそこまでだ。 実際に私は生まれてこの方、誰かに必要とされたことはない。親にだってまともに愛された覚えはないし、ましてや友達なんていなかった。私は必要ない人間だった。親には私なんて比べ物にならないほど優秀な姉がいたし、友達なんて私でなくてもいいものだしね。 審神者になったのだってそんな環境から逃げ出したくて、政府に相談に行ったら素養があるとかなんとかであれよあれよという間に仕立てられたのだ。 我ながら惰性で生きていたとしか言いようがない。 でも、そんな日々は燭台切光忠という存在のおかげで終わりを告げた。 彼は変わらず毎日私のところに来ては今日こんなことがあった、以前こんなことがあったと手を替え品を替え私を楽しませてくれた。純粋に嬉しかった。これが愛されるということなのかと思った。そして同時にどんどん彼に惹かれていった。愛しくて仕方なくなった。身も心も光忠のものとなった私は審神者として相応しくないのかもしれないと思うこともあったけど、もう止められなかった。 その頃だったと思う。光忠のたとえ話が始まったのは。 今の環境とは違う私たちの夢物語を光忠は時に楽しげに、時に悲しげに話した。どの物語も人間と刀という今の関係に比べれば随分素敵に聞こえた。だからいつだって私の答えは1つだった。 「――っていうのはどうかな」 「そう、それはいいわね」 これから先も、 ただ一途に愛してる 私に愛を教えてくれた貴方をただただ愛おしく思うのです。 貴方がいれば私はどんな苦境であろうと幸せです。 Title by秋桜 ← |