共に生きると誓う


「鶴丸国永だ。どうだ?俺みたいなのが来て驚いたか?」
「いらっしゃい、鶴丸国永。待ってたよ」
「おや、君が今度の主かい?これは驚いたな……別嬪じゃないか」
「それはどうもありがとう。顕現するなり主を口説くなんて少なからず驚かされたよ。まぁそんなことはいい。私は主と呼ばれるのが好かないから姫乃と呼んで」
「いいのかい?俺は今人の姿形をしているが付喪神だ、名を知れば神隠しするかもしれんぞ?」
「構わないよ。むしろ、やれるものならやってみなさいって感じね」
「ほう。見た目とは裏腹に随分男らしいじゃないか」
「そうかもしれないわね。ほら、色々と説明しないといけないことがあるから行くよ」

これが太刀・鶴丸国永を顕現したときのことだ。
皆、人の姿に興味を示し私のことは二の次になることが多かったから最初から自分の姿を受け入れていることに不本意ではあるけれどたしかに驚いていた。
私が鍛刀部屋を出ればそれに続いて彼も出てきた。ここで初めて私ではなく自分や景色に興味を奪われたようでキョロキョロと辺りを見渡したり、手をぐーぱーぐーぱーと動かしてみたりと忙しない様子だった。
しばらくして私がじっと見ていることに気づいたようでほんの少し照れくさそうに満面の笑顔を浮かべた。

「いや、人の姿はなかなか物珍しくてついつい刀の頃にはできなかったことをしてしまうぜ」
「そうね。みんな大体は貴方と同じようなことをするわ」
「貴方じゃなく鶴丸国永だ。人として扱われることに慣れていなくてな、君がよければ名前で呼んでくれ」
「じゃあ鶴丸、ついてきて」
「ああ、任せておけ」

何を任せるんだ、なんて思ったけれど口にはせずそのまま歩き出す。こういう時、本当に自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしくなる。無言のまま歩く廊下ほど長く感じるところはない。幸いなのは後ろを歩く鶴丸が相変わらず辺りをキョロキョロと見ている気配がすることだ。
やっとの思いで客間にたどり着くと彼を通しお茶を出して向かい合って座る。

「改めて、ようこそ鶴丸」
「ああ、ありがとう」
「今日からここで私や他の刀剣男士たちとの共同生活が始まるわけだけども、まず決まり事を伝えておくね」
「それはひょっとして堅苦しい文章で書かれた巻物かい?」
「いいえ、他所は知らないけれどうちでは口頭で伝えられる3つかな。まず1つは朝は6時起床6時半前には身なりを整え庭先に集合、その後7時から朝餉という流れになるの。就寝は各自好きなようにしてもらって構わないけれど、宴の日以外は夜10時に消灯ね」
「まてまて。時間がよくわからないんだがどうやって確認すればいいんだ?」
「各部屋に時計があるから同室の者に聞いてちょうだい。2つめは私闘禁止。なお万が一争い事が起こった際は私に当人たちで申し出に来ること。仲裁及び粛清は私が行います」
「最後はなんだ?」
「3つめは最も重要だから心して聞いてね。3つめは……絶対に私を置いて逝かないこと。傷ついたのならばたとえ擦り傷であったとしても必ず申し出ること」
「君は意外と心配性なんだな。俺たちはそう易々と折れたりなんてしないぜ?」
「それでもよ。戦場に立つ以上、絶対なんてないとわかっているけれど、それでも私は誰1人として失いたくないの。だから誰か刀装が剥げたら帰還してねといつも部隊長にお願いしてあるの」

3つめはただの私の我が儘だった。自覚はしていた。でも私は主という権力を振りかざしてそれを強いた。刀である彼らからすればなんとも迷惑な話だと思う。
戦い、散る時は戦場でありたいと願うことは当然だと思う。それこそが彼らの存在意義であると言っても過言ではないと言うのに私の我が儘でそれに制限をかけたのだ。
少し前に来た同田貫正国と御手杵は少し不満気だった。この彼はどうだろうか、と伏せていた視線を戻せばどこかほっとしたような顔でこちらを見ていた。

「君は存外、女らしいじゃないか。待つことしか出来ない可愛らしい君の我が儘くらい叶えてみせようじゃないか」
「不服ではありませんか?文句を言うなら今のうちよ?」
「もちろん俺は刀だ。戦いこそが本分だ。だが、こうして再び戦場に赴く機会を与えてくれた主の願いを押し退けてまで俺は戦いに執着はしないさ」
「ありがとう鶴丸」

なに、礼には及ばないさ。俺もこの人の身でやってみたいこともあるからな。
そう無邪気に笑った鶴丸は少し幼く見えた。人の姿を与えたことを後悔する日が来るとはこの時は思いもしなかった。
ただこの時たしかに私は彼が私の一部となったことを改めて実感していた。




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